BLOG外国人料理人奮闘記2019.06.28

ポルトガル料理人 パウロ・ドゥアルテの「しばいたろか!」

和食を学ぶために板前修業をする人や自国の料理で勝負する人など世界の料理人が食の発想を求めて訪れる美食の街・京都。なぜ京都なのか? 彼らが京都で得るものは何なのか? 外国人料理人の苦労や成功体験を通して見える京都の食とは。

3回目に登場いただくのは、北野天満宮近くでポルトガルの菓子店を開く、パウロ・ドゥアウテさん。夫婦二人三脚でやってきた彼らのこれまでとこれからをご紹介します。

日本のカステラの美味しさに魅入られた

日本のカステラを知ることができたのは、妻の智子が僕の勤務していたお菓子店にやってきたから。30年くらい前だったでしょうか。

彼女は当時大学を卒業したばかりで、ぼくよりもずっとポルトガルのお菓子への想いがあった。長崎で出合ったカステラのルーツを知りたいと、単身・ポルトガルへやってきたんです。そう想うと大胆ですよね。妻と出会っていなければ、僕は日本へ導かれることはなったかもしれません。

やがて僕たちは結婚して、在日ポルトガル大使館やポルトガル貿易振興庁により長崎でのイベントに招かれました。
そこで出合ったのが長崎カステラの老舗「松翁軒」でした。カステラの美味しさを知り、しばらくの間「松翁軒」で日本のカステラづくりを学びました。
そして、その味を「ポルトガルにも」という思いを持って帰国したんです。

ポルトガルで日本のカステラを販売

1996年、智子と僕は、ポルトガルのリスボン郊外で自分たちの店を開きました。
ポルトガルのお菓子と日本の「カステラ」を販売する店でした。

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ポルトガルでいうところのカステラ「パォンデロー」は、地方によって作り方や風味が違います。ただ、どこの土地でも、このお菓子は洗礼式や結婚式などには欠かすことのできない伝統菓子として食されていました。日本に伝わったのが、そのなかのどんな菓子だったのかはわかりませんが、日本で今食べられているカステラとはかなり違います。

だからこそ、ポルトガルから日本に伝わり進化を遂げた「カステラ」を、ポルトガルの人にも知ってほしかった。
2003年にはリスボンに拠点を移し、僕たち夫婦は日本とポルトガル、両方のカステラを販売し、多くの方に喜んでいただけるようになっていました。

ただいま日本、そして京都

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そんななか、「日本でポルトガルのカステラを広めないか」というお話をいただきました。日本は智子の故郷だし、僕にできることがあればとお引き受けしました。

店を出すなら、智子の出身地でもあり、義母のいる京都だろうと思っていましたが、なかなか店舗が決まらず、僕はパン店などに勤務。智子が物件を探すという日々が続いていました。そんなとき、ご縁があって元は酒蔵だったこの建物を見つけました。

蔵だったこともあり、電気も水道もガスの通っておらず、まさに一からの出発。けれど、リスボンの店も教会の近くだったこともあって、北野天満宮そばのこの場所に、なにか運命的なものを感じました。2014年、今から5年ほど前のことです。

ポルトガルの味を日本にも

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先にも話しましたが、ポルトガルのカステラ「パォンデロー」は、日本のカステラとは随分違うお菓子なんです。共通点を探すのが難しいくらい(笑)。日本のカステラは木枠で焼くけれど、それも日本独特。ルーツは確かにポルトガルですが、今となっては和菓子といえるでしょうね。まずは、そのことを日本の皆さんに知っていただくのが大切だと思いました。

とはいえ、日本の材料はほんとうに優れているから、小麦粉も卵も上質なものが手に入り、この店でもポルトガルの味をほぼそのまま復元しています。

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家具や調度などは極力ポルトガルから取り寄せました。ポルトガルの雰囲気のなかでお菓子を味わってもらいたかったんです。

お客様にはカステラのルーツ「パォンデロー」とはこんなお菓子で、こんなに種類があるとか、どんな風に食べるとお伝えしています。それが、僕たちの使命だとも思っています。

お帰りの際は、「オヴリガード(ありがとう)」とお声かけするのが習慣です。

店でつくる「パォンデロー」は3種類

「パォンデロー」はポルトガルの地方によって変わることはお伝えしました。北のものはしっかり焼きあがっていますが、南へいくほどとろりとして半生(半熟)で、プリンかムースのような口あたりです。しっかり焼いたものはチーズなどとともに味わい、半生のものはスプーンですくって食べます。

日本でも餡の炊き具合が違ったり、うどんの堅さが違ったりするような? たぶんその地方の気候風土や慣習などによっても変わるのでしょう。

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うちでは、そんなタイプの違う「パォンデロー」を3種ご用意し、味わいや食感の違いを感じていただきます。大きな素焼きの型で焼いたしっとりと弾力のあるミーニョ地方のもの、小ぶりの素焼きの型で焼いたとろりと濃厚なベイラリトラル地方のもの、そして鍋や金型で焼いたシュワッとした食感を楽しめるエストレマドゥーラ地方のものです。

写真のイートインメニュー「食文化比較体験プレート」税込700円は、ポルトガルの味3種と日本風のカステラを盛り合わせたもので、これを味わっていただくとそれぞれの違いを感じていただけるようになっています。

僕たちの望みはただひとつ、これら「ポルトガル菓子」の礎を日本で確立すること。まあいえば、うちの店はその元祖的なものでしょうか。50年後や100年後にポルトガルのお菓子が日本で親しまれていれば嬉しいですね。

いつかはまたポルトガルで日本のカステラを

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もうひとつの願いは、またポルトガルに戻って、日本のお菓子やカステラを教える学校を開くことです。日本とポルトガルの橋渡しというか相互交流ができればいいと思います。

京都は暮らしにくいかというと、決してそうではありません。
そういう意味で言ったらポルトガルのほうが、よそ者を受け付けない気質があるかも。
でも、何かに本気な人や一所懸命な人には、誰でも手を差し伸べる。それは京都でも他の国でも一緒でしょう。だから僕は、京都で苦労したことなんてない。
「成功した」と思ったら終わりだから、いくつになってもしんどいことはしていくべきだと思っています。

関西弁に「しばいたろか!」って言葉あるでしょう。
これ、いろんな意味で使えますよね。愛のある「しばいたろか~」もあるけれど、ちょっと怒り気味の「しばいたろか!」もある。けど、どんなふうに使っても笑いが起こる。
厳しさを含みながらも、笑いに変えられる。絶妙な関西のコミュニケーションを、僕は京都に来て知りました。

そんな言葉のニュアンスを感じることができれば、世界中どこででもやっていけます!

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■ Castella do Paulo カステラ ド パウロ

京都市上京区御前通今小路上ル馬喰町897
075-748-0505
9:30~18:00(カフェ~17:00)
休 水曜、第3木曜

食知新

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