BLOG外国人料理人奮闘記2019.10.23

スペイン人料理人 ホルヘ・ユークさんの心を奪った平仮名の「の」

和食を学ぶために板前修業をする人や自国の料理で勝負する人など世界の料理人が食の発想を求めて訪れる美食の街・京都。なぜ京都なのか? 彼らが京都で得るものは何なのか? 外国人料理人の苦労や成功体験を通して見える京都の食とは。

7人目の外国人料理人は、流ちょうな関西弁を話すスペインバル「tato」オーナー、ホルヘ・ユークさん。ひょんなことから日本に興味を抱いた少年が、京都で夢を叶えるまでの道のりをご紹介します。

運命的な日本語との出会い

日本を知ったのは家族でフロリダのディズニーワールドを訪れた7歳の時。日本語で書かれたディズニーワールドのパンフレットを見て「めっちゃかっこいいな、これ!」と手に取ったのが最初の出会い。数ある外国語のパンフレットの中で、なぜか日本語だけが特別格好よく見えて......ホテルに持ち帰って、意味も分からず文字を書き写したりして(笑)。その時「いつか必ず日本で日本語を習得するぞ!」って決めたんだ。

カナダの大学を卒業した一週間後には、カナダで知り合った友人を頼って大阪へ。友人の実家に転がり込んで、子どもの英会話教室で働きながら、日本語の先生を探して語学のレッスンを開始。当時日本語は「トヨタ、サムライ、スシ」ぐらいしか知らなかったけど、スパルタンな先生にみっちりしごかれて、4年でかなり上達したね。

その後、スペイン、京都、カナダと数年おきに転居を繰り返しながら、再び京都へ。せっかく日本に住むんだから「一番日本文化が濃いところに住まなくちゃ」と思って。着物、町家、寺社仏閣、歴史的な景観......京都の文化は濃厚で興味深い。まあ、仕事場は滋賀やったけど(笑)。

滋賀で種を蒔き、満を持して京都へ

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まずは滋賀で英語とスペイン語の塾を始めて、数年後には大学時代からの夢だったバルを膳所にオープン。高校や大学の非常勤講師もしてたから、めちゃめちゃハードだった。でも将来京都で店をやりたいっていう次の目標のために、料理もゼロからがんばったよ。実はそれまで料理をしたことがなくて、不動産屋さんから店の鍵をもらった日にスペインのお母さんに電話して「これとこれとこれのレシピ教えてください~」って。

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お母さんのレシピと舌の記憶、それだけを頼りに奮闘したけど、最初は当然失敗ばかり。「いつか京都で」と思いながら、滋賀でたくさん練習させてもらった。滋賀は練習(笑)。結局滋賀では10年塾をやって、そのうち4年は店との掛け持ち。その後、念願叶って京都に移転してからも、膳所時代の常連さんが支えてくれて心強かったね。

京都のド真ん中で盛り上げ役に徹する今

ここはもともと、塾の生徒さんの生家だったところ。つくづく不思議なご縁やね。当時彼女は80歳くらいだったかな。残念ながら数年前に亡くなってしまったけど、ここで産まれた彼女の息子たちは今も時々来てくれるから、その時はもちろん「おかえり!」って迎えるよ。

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営業中はもっぱら表で接客を担当。盛り上げ担当やね。店頭の立看板も自分で書く。ほら「ハイテンションスペイン人」って書いとかないと、知らないで入ってきた人がびっくりするやろ? 書いてても驚かれるけど(笑)。「何か妙なものでも飲んでる?」ってお客さんにしょっちゅう聞かれるよ。ミルクティーしか飲んでないのに! ぺらぺらぺらぺらしゃべりながら、お客さんを楽しませて、世界中のいろんなお酒を飲んでもらうのが僕の喜び。

セクシー足はついに140本超え!

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今切ってるこのセクシーな生ハムは、膳所時代の第1号から数えてちょうど140代目と141代目。赤いラベルがついてる140代目はイベリコ・ベジョータといって、ちょっとスペシャルなグレードのもの。いつもあるわけじゃないけど、これ目当てに来る人もいるくらいの上物。これと一緒に赤ワインを口に含むと、ワインがぐっとおいしくなる。時期にもよるけど、1本消費するのにひと月はかからないね。今までで一番早かったのは祇園祭の時。新しくおろした生ハムが1日で骨になっちゃった。その日は一日中スライスしていた気がする(夢にも出てきたし......)。

ぜひ出来立てを味わって!

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歴代スタッフの得意料理が加わって、メニューの数もずいぶん増えた。営業中、僕に代わって厨房を切り盛りする杉本拓くん(冒頭の写真右)自慢のスパニッシュオムレツは、いわゆるスペインのおふくろの味。スペインでは玉ねぎを入れる派と入れない派があって、うちは入れる派。焼きたてのオムレツはもう最高。毎回焼きあがったら、香りがたつようにお皿をくるくるまわしながら各テーブルをまわっちゃう。お客さんの鼻の下でいつもめちゃまわしてるよ!

地図の余白を埋め続けていきたい

7歳の時、初めて見た日本語の中で、特に気になったのがひらがなの「の」。丸っこい見た目が可愛くて、「なんやこれ?」って。文法的にも「の」は大事やろ? 勉強してみて分かったけど「の」を使わないと会話も成り立たない。スペイン語と日本語はものすごく遠い言葉だけど、その国の文化を理解するにはやっぱり言葉を知らないとね。外国で暮らして、その国の言葉を学ばないのはとてももったいないと思うよ。

次にやりたいこと? 常に考えてはいるけど、リタイアするまでは日本で仕事をしていきたい。日本はとても仕事がしやすい国。というのも、例えば業者さんにしても、みんな時間はきっちり守るし、注文は間違えないし本当に感心する。これがスペインだったら、毎回違う商品が届くよ。しかも違う店に! 行政の手続きも早くてミスがないしね。たまに一週間ぐらい帰国すると「おっそいねん、もう~!」ってめちゃめちゃイライラする。日本のペースが当たり前になっちゃったから、もうほかの国では働けないかもね。

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この日本地図と世界地図は、今まで店に来てくれたお客さんの出身地が一目で分かる地図。「どこから来たの?」って聞いて、マチ針を刺してもらうんだ。昨日は新たにニューカレドニアに針が立った。この地図が、年を重ねるごとにマチ針だらけになっていくのが楽しみやね。

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■Tato

京都市中京区蛸屋町151
075-211-9090
17:30~23:30閉店
休 日曜(祝日の場合は営業、翌月曜休)

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