BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2020.08.06

和ごころ泉「岩牡蠣のコンフィ」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は「和ごころ泉」料理長・泉昌樹さんの「岩牡蠣のコンフィ」をご紹介します。

奇想の一皿「岩牡蠣のコンフィ」

今もその名が語り継がれる伝説の京料理店『桜田』に23歳で入店。通算10年以上に及ぶ同店での修業の後、2006年に独立。のちに、閉店した『桜田』跡に移転し、名だたる食通が認める名店として一目置かれる存在に。料理に対する真摯な思いを込めた「出汁」、自ら生産者を訪ね吟味した食材の数々、料理を引き立てる器やしつらいなど、日本料理の奥深さを改めて教えてくれる一軒。

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発想秘話

最初は「乾物や金華ハムで出汁をとって中華風? それともバターや生クリームでフレンチっぽく?」などと考えを巡らせたのですが、そもそもバターは得意じゃないし、普段使う油といえば胡麻油と米油くらい。でも待てよ、オリーブオイルなら和食とも馴染みやすいかも...と思ったのが始まりです。

そこからしばらく発想が膨らまなかったのですが、うちで毎年4月から祇園祭の時期までお出ししている三重県・あだこの岩牡蠣を使えば「絶対おいしいものになる」と思い至って、それらを合わせることにしました。

自然に近い環境で育つあだこの岩牡蠣は、高い品質を保持するために生産量が限られており、地元でも滅多に食べられない貴重な牡蠣です。京都で扱っているのはおそらくうちくらいじゃないでしょうか。

フレンチの料理人さんに「牡蠣に火を通してお出ししたいんやけど」と相談したところ、「牡蠣は加熱せんほうがうまい」と返されまして(笑)、さてどうやって牡蠣のクリーミーさを引き出したもんかと悩んだ結果、低温調理を試してみることにしたんです。しかし、僕が理想とするクリーミーさや食感を出すのがなかなか大変で、最適な温度や加熱時間にたどりつくまで何度も試作を繰り返しました。苦労の甲斐あって、かなり満足のいく仕上がりになったと思います。

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底がお椀型になったあだこ湾で豊富なプランクトンを食べて育つあだこの牡蠣は、濃厚な味わいが特徴です。店では生でお出ししていますが、今回はオイル漬けにしたあと、コンベクションオーブンを使って半生っぽく仕上げます。

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まずは牡蠣を殻から外し、縦方向に包丁を入れます。なぜ縦に切るかというと、細長い身の上部と下部では味わいが異なるからです。縦にカットすることで、部位による味の偏りをなくし、牡蠣のおいしさを余すことなく楽しんでもらいます。余談ですが、うちではたけのこも同じ理由で、味の偏りが出ない形にカットしています。先端と下のほうでは味が全然違いますからね。

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縦方向に三分割した牡蠣をオリーブオイル、ブラックペッパーとともに密封し、真空状態のまま約10~12時間オイル漬けにします。牡蠣自身の塩味だけで充分なので、ほかに調味料は加えません。

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味が入ったら60℃に設定したコンベクションオーブンで12分加熱し、コンフィが完成です。70℃で30分、60℃で30分、60℃で20分......とあれこれ試した結果、この設定に落ち着きました。身はほとんど縮まず、かといって生でもなく、濃厚なあだこ岩牡蠣の個性と風味をうまく引き出せたのではないでしょうか。

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付け合わせは湯むきしたトマト、生の玉ねぎ、大葉、鰹節を二層に重ね、オリーブオイルと少量の醤油でマリネしたものです。トマトって玉ねぎや醤油とすごく相性がいいんですよ。

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うちの料理に欠かせない鹿児島・枕崎の鰹節は、いつも削りたてを使います。普段から特別なことはしていませんが、出汁にはこだわりがありますね。僕が欲しい状態の鰹節を厳しく選別してもらい、尚且つ理想の枯れ具合まで調整してもらうので、注文してから入荷までにかなり時間がかかります。また、あらかじめかいておくと使うまでに酸化してしまうため、出汁をひく際にベストのタイミングで鰹節を加えられるよう、時間を逆算して用意しています。

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お出汁っていわば僕にとっての万能調味料なんだと思います。そこさえしっかり押さえておけば、あとはもう大変なことってほとんどありません。そもそも僕は「いかに余計なものをそぎ落とすか」に関心があって、普段から引き算で料理を考えています。

たとえばうちには調味料を一切使わず、かつおと昆布のお出汁だけで炊く大根料理があります。煮詰まったらその都度お出汁を足しながら、三日間ぐらい炊き続ける。もう見た目は真っ黒ですよ。ところが味はすごく上品で、口の中に大根そのもののおいしさと出汁のうまみがフワーッと広がり、飲み込んだ途端スーッと消えていく......人間の身体は、本来そういう料理を求めてるんじゃないでしょうか。

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盛り付けたのは、天目専門の作家・木村盛和さんのお皿です。お造りや焼き物、デザートを盛ることもありますね。クラッカーと、熟成の進んだまろやかなバルサミコ酢をオリーブオイルで割ったものを添えています。香りがとてもフルーティーで、まあるい酸味が牡蠣によく合うんじゃないかな。

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献立を考える際、最新の料理誌にもひと通り目を通しますが、どちらかというと古い文献を参考にすることが多いですね。数十年前のものを引っ張り出してきて、それを自分なりにアレンジしてみたり......とはいえ、僕は料理を難しく考えることはしません。

この世界に入って間もない頃、かの『吉兆』のご主人が修業先にみえて「料理は日進月歩していくが、無理に付いて行こうとしなくていい。意識を常に料理に向けていれば、自然と自分も進化していくものだ」と仰ったんです。

実際、無理に料理を考えようとするとしんどくなる。アイデアなんて外を歩けばなんぼでも落ちているもの。「〇〇しなくてはいけない」と難しく考えるのではなく、何気ない会話や日々の生活の中で感じたものを、自然と料理に生かしていきたいですね。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■和ごころ泉

京都市下京区烏丸仏光寺東入ル一筋目南入ル匂天神町634‐3
075-351-3917
12:00~13:00入店、18:00~19:30入店
月曜定休

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