BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2020.10.31

京料理 藤本「伊勢海老のフリット グリーンカレー風味、無花果のセサミソース添え」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『京料理 藤本』藤本貴士さんの「伊勢海老のフリット グリーンカレー風味、無花果のセサミソース添え」をご紹介します。

奇想の一皿「伊勢海老のフリット グリーンカレー風味、無花果のセサミソース添え」

2008年、30歳を目前に風情ある「ろーじ」の町家に店を構える。独立10年目に烏丸御池エリアへ移転。デザートの充実ぶりでも知られ、昼夜ともにお値打ちなコース料理が人気を博す。押小路寺町の姉妹店『悠貴』ではよりカジュアルに京料理が楽しめ、シーンによって使い分けたい。

DSC_4672.jpg

発想秘話

ちょうど今が旬の無花果は甲殻類との相性がいいことで知られています。「エクルビス(アメリカザリガニ)と無花果のサラダ仕立て」はフランス料理の定番ですが、今回は無花果に伊勢海老を合わせてみようと思います。

DSC_4239.jpg

とはいえ伊勢海老のフリットに無花果のソースを合わせるだけじゃいかにも普通で面白くない。そこで、伊勢海老にグリーンカレーの風味を足して、日本、イタリア、タイのエッセンスが感じられるハイブリッドな一品に仕立てました。

実は以前、外国人のお客様が「この料理にホットソースやチリソースを絡めたらおいしそう」と話すのを聞いて、スパイシーな味付けをいろいろ試してみたんです。繊細な味わいが日本料理の持ち味ですが、コースの中にひとつかふたつパンチの効いた料理があってもいいのかなと思って......。そういうわけで最近は自家製のグリーンカレーペーストを使ったりもするのですが、今回もそのペーストを使って「和食の枠」を飛び越えたいと思います。

DSC_4257.jpg

まずは無花果の酒煮を作ります。無花果は添え物ではなくソースのように使いたいので、香りを損なわないよう調味します。甘みは足さず、味付けには白味噌のたまりを使います。うちではこの無花果を冷やしたものに胡麻酢を添え、前菜にお出しすることもありますね。

DSC_4262.jpg
DSC_4270.jpg

伊勢海老の身と味噌を殻から外します。身には軽く塩を振り、のちほどフリットに。味噌はグリーンカレーペーストの隠し味として使います。伊勢海老の味噌を塩漬けにして、自家製のカレーペーストに足してやるんです。僕は大蒜、生姜、玉ねぎ、唐辛子、パクチー、市販のスパイスなどを合わせて一から手作りしていますが、市販のグリーンカレーペーストに海老味噌の塩漬けを小さじ1杯くらい加えてもいいかと思います。

DSC_4286.jpg
DSC_4330.jpg
DSC_4355.jpg

我が家の冷凍庫にストックしてある自家製ペーストをココナッツオイルで炒め、カレーソースの素を作ります。まずは鍋に呼び油として少量のオリーブオイルを入れ、ココナッツミルクを加えます。ココナッツミルクを加熱して水分を飛ばし、オイルとミルクが分離したところにペーストを加えて伸ばし、香りを出します。ここに具材を入れ、ココナッツミルクで伸ばしたものがいわゆる「グリーンカレー」ですね。

DSC_4382.jpg

加熱した際に反り返らないよう伊勢海老の筋を切り、包丁を入れた箇所に先ほど作ったカレーソースを塗り込みます。

DSC_4410.jpg
DSC_4470.jpg

フリットの衣は卵白の効果でふわふわとした食感になりますが、今日はミルクの代わりにココナッツミルクドリンクを使い、衣自体にかすかな甘みを加えました。芯まで完全に火を通さず半生ぐらいに仕上げたいので、ある程度色が変わったら出来上がりです。

DSC_4565.jpg
DSC_4594.jpg

レアに揚がったフリットを適当な大きさにカットし、スライスした無花果と交互に重ねるよう盛り付けます。セサミソースをかけ、仕上げに振り柚子をして完成です。

DSC_4633.jpg

伊勢海老と無花果を一緒に食べると、無花果が口の中でソースのようになって、伊勢海老だけで食べるよりも味に奥行きが感じられます。無花果、ココナッツ、胡麻の香りと、ほのかに甘いフリット生地に包まれたスパイシーな伊勢海老。無花果の自然な甘みが、それらをうまくまとめあげてくれます。

DSC_4647.jpg

30年前に「これが和食? これも京料理?」と思われていた料理が、今では普通に受け入れられています。今の感覚では少々奇抜過ぎると感じる料理も、30年後には和食と呼ばれているかもしれません。時代と共に料理そのものはもちろん、料理の構成やコースのあり方も変わっていくのでしょう。少しずつ変化する世の中のニーズを受け止め、柔軟に対応していく力が、我々料理人にも必要だと感じています。

「あの店のあの(名物)料理が食べたい」と楽しみに来てくださるお客様は多いですが、同時に「少し冒険をしたい」「食べたことのない料理を味わってみたい」とも思っておられる。若い人だけではなく、口の肥えた年配の方々も、新しい料理を面白がる度量をお持ちです。そういった期待に応えられるよう、伝統的な味と新しい試み―それぞれのバランスに配慮しながら、これからも10年、20年と続くお店でありたいですね。

撮影:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子

DSC_4157.jpg
DSC_4033.jpg

■京料理 藤本

京都市中京区新町通御池下神明町72 エリタージュ新町1F
075-211-9105
12:00~13:30(L.O.)、18:00~20:00(L.O.)
水曜休

京都知新編集部推薦

Editors' Choice

「料亭」では、座敷で、床の間のしつらえ、庭の景色、女将さんや仲居さんの所作、季節の空気の色をふくめて、空間ごと「静」の美意識を五感で感じることができます。 「割烹」では、カウンターの目の前で、調理、盛りつけといった料理工程や、大将や、二番手、三番手の料理人の所作を見ながら、「動」の美意識を体感することができます。このコーナーでは、京都知新編集部のスタッフが実際に行ったことがある店の中から、【この店に行けば、そんな静と動の美意識を味わえる】「料亭」と「割烹」をご紹介いたします。

料亭

割烹

食知新