BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2020.11.23

祇園もりわき「伝助穴子炙り ラズベリーソース添え」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『祇園 もりわき』森脇 努さんの「伝助穴子炙り ラズベリーソース添え」をご紹介します。

奇想の一皿 「伝助穴子炙りラズベリーソース添え」

滋賀の名店「招福楼」で長年活躍し、多くの弟子を育てた料理人・堀江隆雄さん。堀江さんの下で腕を磨いた森脇 努さんは、人気割烹「祇園おかだ」などを経て2014年に独立。祇園の一等地にありながら、旬味満載の割烹料理を手頃な価格で提供し、名だたる食通を唸らせています。

DSC_9702.jpg

発想秘話

まずは素材を何にするか―これは穴子にすぐ決まりました。穴子そのものは一年中手に入る食材ですが、11月から正月ぐらいが最も脂の乗りが良く、最高の状態になります。見てください、全体的に身が白っぽいでしょう? シンプルに炭火で焼いたり、つけ焼きにしたり、松茸と合わせて鍋にしたり......。穴子料理はお客様の評判も良く、僕自身も大好きな食材のひとつです。

DSC_9058.jpg

穴子に添えるソースといえば梅肉が定番です。和食の世界で古くから受け継がれてきた伝統的な組み合わせですね。これに代わるものを提案したところで「梅肉のほうがええやん」と言われてしまっては元も子もない。昔からある梅肉ソースの代用品として、どこまで通用するものになるか。そこが一番苦心した点ですね。梅肉とは違った良さが出せたらと思います。

DSC_9032.jpg

今日用意したのは宮城産の伝助穴子です。先ほど説明したように、身にしっかりと脂が乗っているので、酸っぱいソースとの相性が抜群です。うちでは通常、梅肉醤油を添えるのですが、今回はラズベリーを使ったソースに挑戦したいと思います。

DSC_9055.jpg
DSC_9061.jpg

まずは穴子を骨切りします。塩を振り、網にくっつかないようオリーブオイルを軽く塗ったら、炭火で焼き霜に。皮目だけをパリッと焼き上げ、中はほんのり温かい程度に仕上げます。脂がたっぷり乗っているので、煙の勢いがすごいでしょう?

DSC_9183.jpg
DSC_9189.jpg

穴子の焼き霜を一口大に切り、ラズベリーソースと共に盛り付けます。このソースが今回の料理の肝になります。最も気を使ったのは「甘みと酸味のバランス」ですね。甘みが強いといわゆる「いやらしい味」になってしまうので、急遽甘みの少ないフレッシュのラズベリーを足して甘さを調節したり......甘味と酸味の調整が、今回もっとも苦労したところです。

DSC_9322.jpg

作り方ですか? まずはつぶしたラズベリーに煮切った酒や少量のみりん、造り醤油などを加え、たくさんの昆布と一緒に一晩ボウルで寝かせます。一日経つと昆布のうま味がソースに溶け出し、全体的にねとーっとした感じになります。鰹節を加えたものも試作しましたが、昆布だけのほうがバランスが良かったですね。ラズベリーは種が多いので裏ごしをして、最後に味を調えます。

DSC_9413.jpg

和食の「五味、五色、五法」を意識して、2色のソースで彩りました。グリーンのソースは春菊に松の実やブルーチーズを加えた和風ジェノベーゼです。添え野菜(かぶらの間引き菜)に付けてもおいしいかと思います。仕上げに土佐酢のジュレを垂らして完成です。

DSC_9457.jpg

茶色いのは岩手の友人が送ってくれた天然の香茸(こうたけ)です。「幻のきのこ」と言われる希少な茸で、名前の通り香りがすごくいいんですよ。今日はシンプルに塩とお酒でソテーしました。口に入れると香りが後からふわっと広がるのを感じます。

ソースのバランスはどうですか? 偉大な先人が考案した梅肉に「勝とう」とは思っていませんが、梅肉と勝負できるソースを目指しました。

DSC_9677.jpg

僕の師であり、京都ホテルオークラ「入舟」の初代料理長を務めた堀江さんは、黄身酢にパッションフルーツを使ったり、タコをトマト煮風にしてみたりと、自由な発想をされる方でした。堀江さんからは本当に多くのことを学びましたね。

とはいえ先ほども申しましたが、新しい試みが「なんちゃって料理」で終わるようでは意味がないと思うんです。

以前、ある店に勤めていた時、それこそ洋風のものをいろいろ試してみたことがあるのですが、常連さんから「(洋食を意識して作るのなら)洋食を超えるものにならなきゃ無意味だぞ」と、お叱りを受けたことがあるんです。その言葉がずっと心に残っていて、今でも自分への戒めになっているように思います。

DSC_9490.jpg

実は最近、鰹節削り器を新調したんです。いろんな方に助けていただいて、ようやく理想のタイミングで椀物の鰹節を削る環境が整ってきました。「日本料理の華は椀物である」という師匠の教えを胸に、さらに椀を深めていきたいですね。

毎日同じ作業を繰り返すのは大変ですが、その中で少しでも創意工夫を重ね、作業の精度を高めていくことが自分のモチベーションになっています。料理だけでなく、僕という人間も毎日少しずつ良くなりたいと思って、日々精進しています。

撮影:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子

DSC_9665.jpg
DSC_9590.jpg

■祇園もりわき

京都市東山区祇園町南側570‐177
075-525-1030
12:00~13:30(L.O)、18:00~20:30(L.O)
木曜休

京都知新編集部推薦

Editors' Choice

「料亭」では、座敷で、床の間のしつらえ、庭の景色、女将さんや仲居さんの所作、季節の空気の色をふくめて、空間ごと「静」の美意識を五感で感じることができます。 「割烹」では、カウンターの目の前で、調理、盛りつけといった料理工程や、大将や、二番手、三番手の料理人の所作を見ながら、「動」の美意識を体感することができます。このコーナーでは、京都知新編集部のスタッフが実際に行ったことがある店の中から、【この店に行けば、そんな静と動の美意識を味わえる】「料亭」と「割烹」をご紹介いたします。

料亭

割烹

食知新

Recent