BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2021.02.21

割烹八寸「ロール湯葉」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『割烹八寸』久保田完二さんの「ロール湯葉」をご紹介します。

奇想の一皿「ロール湯葉」

かつて追分(京都と大津の境)にあった総敷地面積2万坪以上の大料亭『八新』出身の久保田守氏が50年前に創業。端正で飾らない京料理が高い評価を受け、京都のみならず全国に多くのファンを持つ。物怖じしない性格から多くの陶芸家に愛された守氏は今も現役だが、父の志を受け継ぐ息子の完二氏が采配を振るう。『辻留』の流れを汲む東京・目白の茶懐石『和幸』で約10年、京都に戻って18年。料理の腕はもちろんのこと、カウンターの雰囲気づくりやトークの切れ味もさすがの一言。一流の何たるかを教えてくれる、京都でも指折りの名割烹だ。

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発想秘話

"普段作っている料理とは発想を変えた料理"というお題ですが、僕としては和食から離れすぎるのは嫌なんです。というのも、僕は常々「崩さない」ことをポリシーとしているからです。『八寸』の料理は「和食のお手本となる仕事」を積み上げたもの。ですから「崩し」は、本来やってはいけないことなんですね。

とはいえ料理には想像力が欠かせないのも事実です。料理人は頭の中で「これとこれを合わせたらこんな味になるやろうな」と、想像できないといけません。店で出す料理は正統派の京料理ですが、賄いとなれば話は別。パスタの日もあれば、ベシャメルソースを一から手作りすることもあるし、銀杏で作ったニョッキが出てきたことも(笑)。想像力や発想力を鍛える意味でも、賄いでいろんな調理法を試してみるのはありだと思っています。

「奇想の一皿」を作るにあたり、「和の材料だけで作る」のが僕の考える最低条件でした。そこで今日は京都らしい食材のひとつ「湯葉」を使って、ロールキャベツをイメージした一品を作ってみようと思います。湯葉で包むタネは、鴨と鱧の2種類。「かも」と「はも」、せっかくなので語感も揃えてみました(笑)。

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まずはタネ作りから。鴨タネには鴨ロースを作る際に余る手羽の部分を使います。手羽のミンチに玉ねぎやナツメグを加え、箸でスッと切れるぐらいなめらかになるまであたり鉢で摺ります。鱧ダネは鱧のすり身に海老のミンチを加えて糝薯(しんじょう)に。鴨も鱧も片栗粉の代わりに浮き粉を使って、よりなめらかな質感に仕上げます。

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切り口が市松模様に見えるように、下茹でした京人参と大根をそれぞれのタネで包みます。

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この状態で一度、蒸し器に入れて10分ほど軽く蒸します。

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蒸しあがったら、タネを湯葉で巻いていきます。生湯葉は『静家』さんのもの。水にこだわって美山に移住される前からのお付き合いです。汲み上げ湯葉などもおいしいですね。

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湯葉で巻いてから再び蒸し器で蒸します。一般的なロールキャベツはここからスープで煮込みますが、湯葉は煮込むと固くなるので今回は煮込みません。代わりに自家製のトマトソースをつけて召し上がっていただきます。

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ソースは玉ねぎをオリーブオイルでよく炒め、トマトとかつおだしを加えて煮詰めたもの。トマトとかつおだしは思った以上に相性がいいですね。煮詰めた後に裏ごして、残った具をさらに濾してソースに戻して......このままパスタソースとしても使えるぐらい、かなり濃度の高いトマトソースに仕上げています。

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今回は料理が映えるようシンプルな器に盛り付けました。それぞれのタネの味の違いを楽しんでもらって、ソースの量もお好みで加減しながら味わってみてください。オリーブオイルを使いましたが、出汁と喧嘩することもなく、上品なソースに仕上がったと思います。焼き魚などに合わせてもおいしいんじゃないかな。

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最初に「崩さないのがポリシー」と言いましたが、「崩さない」と「進化しない」はイコールじゃないと思うんです。無理に新しいものを取り入れなくても進化することはできる。むしろ僕は「古い仕事」に興味があって、おやじや年配の板前さん、歴史の古い川魚屋さんに聞いたりして、「古い仕事」を再現しています。「寒鮒の子まぶし」とか、いつの間にか廃れてしまった料理って結構あるんですよ。そういった料理に今改めて目を向けると、逆に新鮮で刺激を受けますね。

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最初は料理人になる気はありませんでした。おやじにも「しんどい割に儲からん。和食はいずれあかんようになる」と言われてましたし、実際その頃はフレンチやイタリアンが脚光を浴びて、和食が不振の時代だったんです。ところが当時、店の常連さんが「跡を継ぐもんがいないと自分たちの憩いの場がなくなる」と寂しそうに話すのを聞いて、心変わりしたんです。こんな風に思ってくれるおやじのファンのためにも頑張らなあかんな、と思って。
『八寸』を大切に思ってくださる方々の思いに応えるために、これからも先達から継承した味と技術を守り伝えていきたいですね。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■割烹八寸

京都市東山区祇園末吉町95
075-561-3984
12:00~13:30(L.O.)、17:30~20:30(L.O. )
日曜休

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「料亭」では、座敷で、床の間のしつらえ、庭の景色、女将さんや仲居さんの所作、季節の空気の色をふくめて、空間ごと「静」の美意識を五感で感じることができます。 「割烹」では、カウンターの目の前で、調理、盛りつけといった料理工程や、大将や、二番手、三番手の料理人の所作を見ながら、「動」の美意識を体感することができます。このコーナーでは、京都知新編集部のスタッフが実際に行ったことがある店の中から、【この店に行けば、そんな静と動の美意識を味わえる】「料亭」と「割烹」をご紹介いたします。

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