BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2021.06.18

杦(せん)「麻婆白子豆腐」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『杦(せん)』杉澤健さんの「麻婆白子豆腐」をご紹介します。

奇想の一皿「麻婆白子豆腐」

『菊乃井』や『和久傳』といった京都を代表する名店で修業し、『祇園ろはん』では料理長を務めた杉澤健さん。2018年にオープンした自身の店『杦』では"総合芸術"としての日本料理を提供すべく、四季折々の年中行事に則った繊細なもてなしで迎えてくれます。

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発想秘話

5月はメイン食材が乏しい時期でもあり、このタイミングで「他のお店がしないようなことをやってみようか」という気持ちで取り組んでみました。随分前からうっすらとした構想はあったのですが、ちょっと勇気が必要で(笑)。

今回、僕が「奇想の一皿」に選んだ料理は麻婆豆腐です。とはいえ、使うのはオーソドックスな和の食材ばかり。料理の世界でもここ最近「再構築」という言葉をよく耳にしますが、和のパーツを用いて新しい料理を組み立てていこうと思います。

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麻婆豆腐に欠かせない豆腐には、鯛の「白子豆腐」を使います。今回はこの「白子豆腐」と自家製の粉山椒を使うのがポイントです。粉山椒は今年初めて作ってみたのですが、色鮮やかで香りが良く、「これで何か作りたいな」と思ったことから、今回の料理が生まれました。

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右上の鮮やかな緑の粉が大原の実山椒から作った自家製の粉山椒です。ほかに生姜、葱、味噌、ぐじ、黄にらが入ります。白子豆腐には鯛の白子を使っているため、本当は具材にも鯛を使いたかったのですが......今日はいいぐじがあったので、こちらを使います。

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ぐじをほどよい大きさに切ります。打ち粉をし、唐揚げにして麻婆豆腐の具材にします。カットが大きいですか? 修業先(室町和久傳)の影響もあって、基本的に大きく切るのが好きなんです。芸舞さんからも「おとうはん、もっと小さく切って」とよく言われます(笑)。

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白子豆腐をサイの目に切ります。酒蒸しにした白子を裏ごし、出汁、調味料、くずを加えてよく練り、一晩固めたものです。白子自体に塩分があるので、ほとんど味は入れていません。今日は鯛の白子を使いましたが、ふぐで作ることもあります。店では椀だねにすることも多いですね。

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太白の胡麻油で香味野菜を炒め、香りが立ったら味噌を溶いた出汁を加えて麻婆豆腐の素を作ります。出汁に溶く味噌は普段から常備している田楽味噌っぽい甘い味噌で、焼き無花果のペーストと混ぜて鴨肉に添える無花果味噌にしたりと、いろんな味噌だれのベースになります。辛子酢味噌の素になる白味噌バージョンもあり、料理によって2種類の味噌ベースを使い分けています。

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白子豆腐は蒸し器で2分くらい軽く蒸し、ぐじの切り身は唐揚げに。白子豆腐は熱を加えすぎると溶けてしまうので、火を通し過ぎないよう注意します。

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本当は行者にんにくも入れたかったのですが、時期的に難しかったため黄にらで代用しています。どちらもあっさりしていてにおいも残らないので、普段からよく使う食材です。白子豆腐が煮崩れない程度に土鍋を煮立て、仕上げに粉山椒を振って完成です。

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今日はごはんと一緒に召し上がっていただくイメージで、かなりしっかりめの味付けにしています。ビールにも合うと思いますよ。僕は辛い味付けが大好きなので、自分で食べるなら黒七味も振りたいですね。

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伝統的な和の仕事である白子豆腐に田楽味噌、ぐじ、香味野菜、山椒......使っているのはどれも一般的な和の食材ですが、目先の変わった一品になったと思います。

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今回のような試みについてですか? きちんと基本を押さえた上で、たまにこういう(創作的な)こともやっていけるといいですね。同じことばかりしていても成長できませんし、伝統を守りながら新しいことにチャレンジするのは有意義だと思います。ただ最近つくづく思うんですが、僕らが考え付くようなことなんて、既に誰かがやっているんですよ(笑)。そう思うと僕らが出来ることなんて、せいぜい新しい科学技術を取り入れるとか、(流通や栽培システムの進化によって)今まで扱えなかった食材を使ってみるとか、そういう部分でしかないのかなって。とはいえ、昔からやっている仕事を今の技術で焼き直したり、再構築したりということはまだまだ可能だと思うんです。

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日本料理には歳時記に寄せてたくさんの決めごとがあります。料理だけでなく器や道具、お花、しつらい......さまざまな要素が特別な体験を形作っている。僕はそういった日本文化を大切にしたいので、6月のこの時期は玄関に茅の輪を用意しますし、スタッフも皆、普段からお茶やお花のお稽古に通っています。これからも日本料理の伝統と文化を守り、次の世代にしっかり伝えていきたいですね。 

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■杦(せん)

京都市下京区五条通柳馬場上ル塩竈町379
075-361-8873
12:00~15:00、17:30~22:00
水曜休(不定休あり)

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