BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2021.09.24

割烹しなとみ「京鴨の煮込みハンバーグ」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『割烹しなとみ』店主、高橋集一さんの「京鴨の煮込みハンバーグ」をご紹介します。

割烹しなとみ「京鴨の煮込みハンバーグ」

洋食レストランでのアルバイトをきっかけに、大学卒業後、飲食業界へ。当初は洋食のコックを志すも、和食部門に配属され方向転換。以来、さまざまな業態の店で経験を積んだ高橋さんが、独立にあたって選んだのは「その日の気分で自由に楽しめる」割烹スタイルでした。魅力的な一品がずらりと並んだ品書きからは「好きなものをぶわーっと頼んで食べるのが好きなんです」という健啖家ぶりが伝わってくるよう。「今日は何かとびきりおいしいものが食べたい!」そんな期待に全力で応えてくれる、頼もしい一軒です。

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発想秘話

和洋折衷的なものは普段ほとんどやらないので、何を作ればいいのかとても悩みました。その突破口になったのが、妻の「あなたの一番好きなものを作ったら?」というアドバイスでした。僕はグラタンやエビフライなどの洋食に目がないのですが、なかでもとりわけ好きなのがハンバーグ。それならと、いつも店で使っている京鴨を用いてハンバーグを作ることにしました。

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ただ、鴨のハンバーグって一歩間違うと「鴨のつくね」になりかねないんですよ。今回はハンバーグを焼いた後、さらに昆布出汁で煮込むのですが、いわゆる「鴨のつみれ鍋」にならないよう苦心しました(笑)。それでは作っていきましょう。

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海外でハンバーグといえば「バーガーのパティ」としてバンズに挟むのが一般的で、それ単体で食べるものではありません。つなぎを加え、調味したパティを「ハンバーグステーキ」として楽しむのは、日本独自の食べ方ですよね。

僕の好きなハンバーグは、もちろん後者のスタイル。レストランだけでなく、日本中の家庭で作られている"あの"ハンバーグです。ですからたねにはつなぎとして棒麩、レンコン、豆乳などが入ります。

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鴨ロース用に仕入れている京鴨をミンチに。京鴨は香りがさほど強くないため、肉の臭みを和らげるスパイスなどがいりません。また、あとで昆布出汁と合わせたときも、昆布と鴨の香りが喧嘩しないんです。

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量はさほど多くないものの、京鴨の脂は粘り気がすごく強いので、念入りに叩いてなめらかに仕上げます。

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パン粉代わりの棒麩、ハンバーグをふっくらさせてくれるすりおろしレンコン、豆乳、卵、レンジで加熱し臭みを取った白ねぎのみじんを加え、ハンバーグのたねを作ります。ここで隠し味に「昆布粉」を加えると、味がバシッと決まるんですよ。

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たねを楕円に成形します。食材や調理法の組み合わせ、盛り付けなど、いろんな要素を掛け合わせてひとつの料理を作り上げる......そこが日本料理の奥深いところじゃないでしょうか。

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フライパンで肉の両面にきれいな焦げ目を付けます。このあと昆布出汁で煮込むので、中心部がほんのり温かくなる程度で構いません。

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下御霊神社の湧き水に昆布と少量の酒を入れて火にかけ、焼き目を付けたハンバーグを入れます。この昆布出汁はそのままお椀の汁になるので、丁寧にあくを取りながらしばらく炊きます。味付けは伊豆大島の海水塩のみ。この水ですか? 祇園の割烹で修業していた頃から使っています。普通の水と違い、これで出汁をひくと「まあるい味」になるんですよ。

炊き過ぎると肉の臭みが出てくるので、15~20分くらいで火を止めます。

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汁と一緒にハンバーグを椀に盛り、軽く蒸したトマトとクレソン、生胡椒の塩漬けを散らして完成です。トッピングのトマトとクレソンは「ハンバーグプレート」をイメージして選びましたが、出汁にトマトの軽い酸味や甘みが加わり、すっきりとした味に仕上がりました。

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いかがですか。お出汁がまるで洋風のスープみたいでしょう? いろんなうまみが入った力強い出汁に対し、椀だねのハンバーグは鴨の風味が感じられるくらいの優しい味にしています。出汁と椀だねのバランス、掛け合わせの妙を楽しんでもらえるとうれしいですね。

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旬の食材をその時の気分で調理して...ということをずっとやってきたので、コースのみのスタイルは最初から頭にありませんでした。例えばお造りとお酒だけでサッと帰らはってもいいし、「今日はお酒飲めへん日やから」と焼き魚にごはんと赤だしをつけた「おうちごはん」も大歓迎。要は気張らず、"いいように使(つ)こてもらえる店"でありたいと思っているんです。

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「割烹の灯を絶やしたくない」と言ったら少し大げさですが、割烹文化を次の世代に伝えたいという思いもあります。「これ」といった決まりがないのが割烹料理屋の醍醐味。お客さんと対話しながら、一緒にいい時間を作っていけたら......。小さな店だからできることも多いですし、リクエストに応えることで僕自身の勉強にもなります。お客さんも僕たちも、ともに高め合い、楽しめる店にしていきたいですね。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■割烹しなとみ

京都市上京区信富町315-4
075-366-4736
17:00~22:00
木曜休

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「料亭」では、座敷で、床の間のしつらえ、庭の景色、女将さんや仲居さんの所作、季節の空気の色をふくめて、空間ごと「静」の美意識を五感で感じることができます。 「割烹」では、カウンターの目の前で、調理、盛りつけといった料理工程や、大将や、二番手、三番手の料理人の所作を見ながら、「動」の美意識を体感することができます。このコーナーでは、京都知新編集部のスタッフが実際に行ったことがある店の中から、【この店に行けば、そんな静と動の美意識を味わえる】「料亭」と「割烹」をご紹介いたします。

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