BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2021.10.22

祇園 ろはん「おむらいす」と「トマト出汁の鱧しゃぶ」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『祇園 ろはん』料理長、大村大樹さんの「おむらいす」と「トマト出汁の鱧しゃぶ」をご紹介します。

祇園 ろはん「おむらいす」と「トマト出汁の鱧しゃぶ」

祇園の大和大路沿いにオープンして10年。炊きたての土鍋ごはんを上質なおかずと共に味わう「ワンランク上の定食」が人気を博すも、この春『菊乃井本店』出身の大村大樹さんを料理長に迎え、メニューを一新。土鍋ごはんや人気の炭火焼きを残しながら、季節の料理をアラカルトで楽しむ割烹として新たなスタートを切りました。つやつやのごはんも料理を引き立てるお酒も、どちらも存分に楽しめる貴重な一軒です。

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発想秘話

もともと『祇園 ろはん』は「美味しいお米を味わってもらいたい」という思いからスタートした店です。僕が料理長になってからは、アラカルト中心の割烹へとスタイルを変えましたが、お米へのこだわりは開店当時から一貫しています。

しかしそれとは別に、僕自身「日本の米食文化を守っていきたい」という強い思いがあって、お米をテーマにした料理を作ろうと考えました。

少し前にこの企画に登場した菊乃井時代の先輩でもある酒井研野さんが「日本で独自の変化を遂げたもの」として「アメリカンドック」をテーマにしていましたが、実はあれが大きなヒントになりました。洋食として親しまれているけれど、西洋発祥の料理ではなく、日本で生まれたお米料理......そう、オムライスです。新しいお米料理を創作するつもりで、奇想の「おむらいす」に挑戦したいと思います。

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本当はオムライスだけで勝負したかったのですが、もう少し改良の余地があると思っているので、今回は「オムライスと鱧しゃぶのセット」として提案させてもらいます。今後さらにブラッシュアップを重ね、たくさんの人に愛される「おむらいす」に育てていくつもりです。

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まずは鱧しゃぶ用の出汁を作ります。イメージとしては、南欧などでよく食べられている「白身魚とトマトのスープ」みたいな感じでしょうか。トマトはグルタミン酸が豊富なので、スープの出汁としても優秀なんですよね。

次にトマトをフードプロセッサーにかけます。水分が出やすくなるよう少量の塩を加えて撹拌し、スープ状になったものをざるで濾します。強い圧をかけたり、絞ったりするとトマトの赤い色が出てしまうので、一晩かけてゆっくりと抽出し、透明な「クリアウォーター」を取り出します。

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焼いた鱧の骨を加えた昆布出汁とトマトのクリアウォーターを1:1の割合で合わせ、塩と薄口醤油で味を調えたら、檜製の「湯豆腐桶」へ。この『たる源』さんの桶は普段から湯豆腐や鱧しゃぶに使っているのですが、いこした炭を本体に仕込むことにより、出汁の温度を60~70℃に保つことができる優れものなんです。

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脂の乗った鱧を骨切りし、一口大に。淡路の鱧は「日本一の鯛」で有名な水口商店さんから、出汁のトマトは上賀茂の農家から直接仕入れたものです。上賀茂には時々足を運んで、野菜のことをいろいろ教えてもらっています。そんな中で新たな食材に出会うことも多いですね。

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はじめにエリンギを入れ、きのこの出汁がでたところで鱧を泳がせます。だんだんと皮が厚みを増す時期なので、少し長めに10秒くらいしゃぶしゃぶしてください。見たところトマトの影も形もないのに、しっかりとしたトマトの風味が香る出汁......うまみだけでなく、ほどよい酸味もあるトマトなので、ポン酢がなくてもすっきりと召し上がっていただけます。

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次は主役のオムライスです。最近はいろんなタイプのオムライスを目にしますが、これから作る「おむらいす」の基となるのは、チキンライスを薄焼き玉子でくるんだ昔ながらのタイプ。鶏の炊き込みごはんを出汁たっぷりの玉子で巻き、ケチャップに見立てたトマトのタレを上からかけます。

卵は当店自慢の「たまごかけごはん」のために広島から取り寄せているもの。この濃厚な卵で出汁巻き用の卵液を作り、炊き込みごはんを芯にして巻いていきます。

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出汁をたっぷり含んでいるので、きれいにごはんを巻き込むのに苦労しました。薄焼き玉子で何重にもロールするなど、いろいろ試してみたのですが、やはり出汁巻き玉子ならではの「ほわっ」とした食感にこだわりたくて......。最終的に"柔らかめ"に炊いたごはんで芯を作り、卵と接着しやすくすることで解決したのですが、この部分に関してはもう少し改良したいと思っています。

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一見すると「鰻巻き」のようですね(笑)。芯にした炊き込みごはんにはきのこと鶏肉が入っています。炊き込みごはんと出汁巻きの組み合わせなので、このままでももちろんおいしいのですが、オムライスっぽさを出すために真っ赤なタレをかけます。

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このタレにはクリアウォーターを抽出した際に出たトマトの果肉を再利用して使っています。トマトの上澄みにケチャップを足して煮込み、そこにしめじと玉ねぎのペーストを加えて煮詰めていくと、こんな風になります。このタレをかけることで、見た目も味もぐっとオムライスっぽく仕上がりました。

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今回は試行錯誤の末、こういう形になりました。「おむらいす」とトマトの酸味を生かした「トマト出汁の鱧しゃぶ」のセットです。今後、玉子の巻き方をさらに研究して、最終的には炊きたての熱々ごはんを出汁巻き玉子で巻いてやろうと思っています。

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修業先の『菊乃井本店』ではお客様と直接お話しする機会が少なかったので、今は目いっぱい「カウンター割烹」の醍醐味を楽しんでいます。いつか自分の店を構える時には、カウンター越しにお客様の反応が見られる割烹を、と思っていますが、目指すのは「なんでもできる店」。修業先で学んだコース料理も、お客様と対話しながら作り上げる割烹料理も、どちらにも対応できる料理人になりたいですね。

和食が文化遺産として認められるよう、先頭に立って尽力された『菊乃井』の大将。その方の下で料理を学んだ身としては、僕らの代で日本料理がダメになったと言われるわけにはいきません。和食、そしてお米の文化を次の時代にしっかり手渡せるよう、もっともっと力をつけていきたいと思います。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■祇園 ろはん

京都市東山区大和大路通四条上ル
075-533-7665
17:00~22:30(L.O.)
日曜定休

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「料亭」では、座敷で、床の間のしつらえ、庭の景色、女将さんや仲居さんの所作、季節の空気の色をふくめて、空間ごと「静」の美意識を五感で感じることができます。 「割烹」では、カウンターの目の前で、調理、盛りつけといった料理工程や、大将や、二番手、三番手の料理人の所作を見ながら、「動」の美意識を体感することができます。このコーナーでは、京都知新編集部のスタッフが実際に行ったことがある店の中から、【この店に行けば、そんな静と動の美意識を味わえる】「料亭」と「割烹」をご紹介いたします。

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