料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.02.19
「すし・一品料理 すし昌」-「Gori's Kitchen ゴリーズ キッチン」の足立充憲さんが通う店
Gori's Kitchen ゴリーズ キッチン 足立充憲さん大阪の「Ristorante e Pizzeria SANTA LUCIA」で4年半、修業して、その後、さらに腕を磨くために南イタリアに渡る。現地のトラットリアで働き、帰国後は、大阪の「asse(アッセ)」で5年、さらに腕を磨いた。地元の京都に戻るが、資金を稼ぐのと、他の世界もみておこうということで3年ほど不動産営業の仕事に就いたのち、2016年に自分の店をオープンさせた。窯で焼き上げるナポリピッツァを中心に、足立さん自身が食べたいものをオリジナル料理としてメニューに反映させて、ナポリピッツアの他、前菜、メイン、パスタ、デザートなど多彩な料理を提供している。気取らない店主の人柄そのもの、アットホームな雰囲気の店には、家族連れや仲間同士が集い、いつも賑やかな空気が流れている。「すし昌」の店舗は、観光客でいつも賑わう『みやこみち』の中ほどに位置する。 モダンな店が立ち並ぶ『近鉄名店街みやこみち』は、もともと、昭和39年、新幹線開通と同時に京都駅八条口に近鉄名店街として開業した。現在は、東西約200メートルの間にみやげ店、飲食店、書店など約40店舗の店が立ち並び、京都の南玄関を代表する施設となっている。その中ほどにある「すし・一品料理 すし昌」は、美味い魚と寿司を食べさせる店として、地元京都人をはじめ、観光客や出張ビジネスマンなども数多く訪れる。 主人の松本敏昌さんは香川県の出身。大阪で「専門学校に通っていた頃、寿司店でアルバイトをしたのをきっかけに飲食の世界に入った。その後、うなぎの店や喫茶店のマスターなどを歴任し、平成17年にこの店をオープンさせた。毎朝、中央市場に自ら出向いて、新鮮な魚介を吟味し、仕入れによって品書きを毎日変える。「とにかく美味い魚を食べていただきたいです。うちのお客さんは大体、本日の造りや魚介系の一品料理をいくつか注文されて、締めに寿司、という感じで楽しんでおられます」と松本さん。 Gori's Kitchenの足立さんとはたまたま知り合って、年齢は違うが気があったそうだ。「面白い子でね。イタリアンの店で働いているのに、魚のことや捌き方を勉強したい言うて、頼んできたんですわ。なかなか真面目にちゃんとやってましたよ。一度、携帯に電話したら、眠そうな声で出て、今、イタリアやというからびっくりしました(笑)」。「魚のことを教えてください!と松本さんに頼み込んで、ええよ!と言ってもらって。割に長い間、通わせてもらっていました。若いからこんなことできたんやと思いますけど(笑)、松本さんにはほんまにお世話になりました。でも魚を見る目と捌く技術を教えてもらったのは、僕にとってほんまに大きなことでした」と足立さん。 現在は、互いの店を行き来して、変わらぬ交流を続けているという。店内は座敷、テーブル席、カウンター席がゆったりと配置されている。 足立さんは、この店に来ると、いつも大体、おまかせにするそうだ。「ここではとにかく何をお願いしても美味しいので、造りや焼き物、揚げ物など旬の魚をたっぷりと味わわせていただいています。こちらの好みもよく把握してもらっているので、味はもちろんですが、いつもちょうど良い量で、大満足して帰ります」 初めて来店した人におすすめなのが、お造り、寿司、椀ものがセットになった桶御膳だ。一人前でこのボリュームがあり、「すし昌」ご自慢の魚介料理が一度に楽しめる。今日の造りは、サザエ、甘海老、マグロ、鯛、サーモン。これでお酒をゆっくり楽しんで、その後に、握り9カンを食せば、満腹になってしまうという、かなりのお値打ちだ。 近州米を独自ブレンドしたすし飯は、しっかりとした味わいながら、甘さ控えめで、すっきりと爽やかな江戸前の味。魚との相性がよく、食べ飽きない。寿司や造りにつけて食べる醤油は、故郷、香川県は小豆島の、マルキン醤油の濃口とさしみ醤油を独自ブレンドしたもの。これもキリッとした味わいで魚介によく合う。人気「桶御膳」は、このボリュームで3700円(消費税込み)!すし飯がさっぱりとした江戸前なので、9カン、ペロリとお腹に収まってしまった。魚介の種類は当日の仕入れによって変わる。 松本さんは、すし店を開業する前は、うなぎ店をしていたことから、うなぎ料理も定評がある。国産のうなぎをふっくらと焼き上げ、丸ごと一尾、贅沢にいただけるのが特上うな重だ。真っ白なごはんに、しんなりと重く、艶めくうなぎがどっしりと乗って、それだけで胃の腑が唸る。香ばしい最上の焼き具合、脂が程よく乗って、ほろっフワッととろけるようなうなぎの身、ごはんにタレとうなぎの旨味が染み込んで、これはもう、ただただ、うっとりとなってしまう味わいだ。古くからの常連さんで、注文するのはいつもこれ、という人もいるというのがうなずける。特上うな重4300円。椀物と香の物がついている。本日の新鮮魚介たち。本マグロ、ぐじ、あわび、はまぐり、つぶ貝、香住の柴山港の松葉蟹などの旬魚が、松本さんの手で美味しい料理に仕立てられていく。 「うちは駅近で、地元の企業の方や観光客、外国の方などがよく来られますね。ワイワイしすぎず、大人の方が美味しい魚とお酒と寿司で、ゆっくりと食事を楽しんでいただける店です。これから春にかけて、美味い魚がたくさん出てきますので、ぜひ、御賞味ください」。 今朝、仕入れてきたばかりの魚介を見せてもらうと、キラキラ輝いて、今がまさに食べ頃。駅を降りてすぐという便利な場所に、美味い魚を食べさせてくれる寛ぎの一軒があるとは...!美味しいもの好きには、何とも幸せなことである。主人の松本さんの笑顔に誘われて、こちらもほっこり温かな気持ちになってくる。■すし・一品料理 すし昌京都市下京区東塩小路釜殿町37-7 近鉄名店街みやこみち075-661-6899平日11:00~ 22:00(21:30 LO)無休予約がベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.01.27
「ユキフラン佐藤」-「ワインとワショク ツネオ」の岸名裕彦さんが通う店
【ワインとワショク ツネオ】店主の岸名裕彦さん。岸名裕彦さんは兵庫県丹波市出身。祇園のイタリアンの名店「イル ギオットーネ」で経験を積み、同店の東京丸の内店のオープニングマネージャーとして活躍。都内のイタリアンレストランなどの仕事を経て、2013年5月、自らの店である【ワインとワショク ツネオ】をオープン。季節ごとの感性、素材と素材の出合いを大切に、オリジナリティ溢れる料理を日々、創造している。 白川沿い町屋が立ち並ぶ、風情ある祇園新橋にほど近いビルの奥。白い暖簾の向こうに静かに佇む「ユキフラン佐藤」の店主、佐藤功一さんは、東京の大学で建築を学んでいたが、卒業後、日本料理の世界へと進んだ。 その理由の一つが、茶の湯の世界との出会いだった。大学構内にあった「待庵」の写しの茶室で行われていた茶道の稽古に参加することになり、月1〜2回の稽古に通ううちに、茶の湯の世界に強く惹かれるようになったという。 「茶室独特のあの背筋がピンと伸びるような心地よい緊張感や、静かで澄み切った空気など、心に響くものがあったんです。建築も空間に関わる世界ですが、何か茶の湯のこの心地よさや素晴らしさとつながるような仕事をしたいと思うようになりました。漠然とですが、それは宿泊施設のような空間を将来作り、そこで仕事をすることかな?と考えるようになり、それなら、まずは宿泊に深く関わる料理から始めようと思ったんです」。 2年ほど東京の店で修業したのち、親しくしていた京都出身の先輩からの声がけがあり、京都へと移り住む。京都の割烹店で6年、さらに修業を積んで、2013年8月に自身の店をオープンした。店内はカウンター9席のみ。完全予約制で1日、1〜2組の予約を受け入れている。「ワインとワショク ツネオ」の岸名さんは3〜4年前、人づてに祇園に良い店があると聞いて、佐藤さんの店を訪ねたという。「おまかせのコースのみのお店ですが、佐藤さんの素材の持ち味を引き出す料理のどれもが素晴らしく、衝撃を受けました。シンプルな料理なのに、奥行きがあり、その料理も驚くような味わいに仕上がっていて、まさに天才肌の料理人だと思います。その上で、料理にかける情熱を持って、常に美味しい味を追求し続ける人。料理人として、その姿勢を心からリスペクトしています」開店当初の思いを持ち続けつつ、日々、料理に向き合う佐藤さん。「心の奥底に響くような料理を作っていきたいというのが、当時からの思いです。なかなかできることではないですが、コース料理の中でたった一つでも、心に響く味が提供できれば、その方はまたきっと来てくださると信じて、日々、料理に向き合いたいと考えています」と佐藤さん。 食材は自らが毎日、市場や時に遠く大原あたりまで出かけて、納得するものを手に入れる。季節や旬を考えながら、素材の取り合わせを考え、献立を決めていく。器も骨董を中心に、自分の感性に沿う品々を少しずつ蒐集している。その道具箱がぎっしりと店奥に並んでいる。 「顔見知りになってからは市場などで出会った時、よく話すようになって、食材の情報交換もしています」と岸名さん。佐藤さんの料理にすっかり惚れ込んでいて、「何か美味しいものが食べたい」という時は、迷わず、佐藤さんの店を訪ねるそうだ。桐箱には、一つひとつ、佐藤さんが吟味して集めた器が大切にしまわれている。 まだ寒さの残る新春の候に合わせて、佐藤さんに料理を何品か作ってもらった。 軍配を象った繊細な美しさの古九谷の器で登場したのは「たたきごぼうと小鯛の玉露煮」。小鯛を一尾ごと素焼きして、玉露で半日〜1日、じっくりと炊き、骨も柔らかくなったところを甘辛く甘露煮に仕上げる。身も骨もホロホロと柔らかく、添えられた玉露の茶葉とともにいただくと、じんわりと素材の滋味が溢れてくる。たたきごぼうは、サクッとした食感を残しつつ、粗く擦った白ごまを纏って、どこまでも香ばしい。素材本来の持ち味を生かし、どこまでも味わい深い料理。日本酒とともにじっくりと堪能したい。 椀ものは季節に相応しく、ふぐの白味噌仕立てのお雑煮。ふぐのアラから引いただしと白味噌のふくよかな風味、玄米餅はもっちりした中に玄米の粒々が生き生きと立って、微かな野趣を感じさせる。こんもりと盛られた緑は、ふきのとう。ほろ苦さと爽やかさが口中に広がって、まだ少し遠い春を呼ぶような心持ちになる。さらに、アラをカリッと揚げたふぐあられが弾むような食感と香ばしさを添えて、新春を寿ぐにふさわしい一椀に、深く、心打たれる。鶴の金彩を施したおめでたい椀に、そっと貼られた白味噌とふきのとうの緑の対比が実に美しい。春を呼ぶ一椀だ。 割山椒という柔らかな曲線を描く備前の古い器に盛られた、色彩豊かな一品は、牡蠣とセリのおからである。しっとりとした真っ白いおからにセリの青を瑞々しく和えて、セリの根を添える。春先の青味と大地の味を舌に感じつつ、香ばしく焼き上げたどっしりと量感のある牡蠣をいただく。潮の香りとまろやかな旨み、濃厚なコクが一気に喉元を通り過ぎ、胃の腑にしっかりと収まる。大地の恵みと海の恵みが身の内に充溢してくるようで、まさに贅を尽くした味わいとは、こうことをいうのだろう。春の芽吹きを感じさせるような一品。セリの葉と根が土の力強さを、釧路・仙鳳趾産の牡蠣が海の匂いを運んでくれる。 一品ひと品に、岸名さんのいう「衝撃」を確かに感じ、料理を味わうほどにその驚きが喜びに変わっていくのがわかる。素材の取り合わせ、調理、仕上げに至るまで凄みさえ帯びて、こちらは佐藤さんの世界にただただ、うっとりと浸ってしまう。 しかしご本人はいたってストイックな姿勢を崩さない。 「茶の湯にも通じることで、料理における真・行・草についてよく考えるのですが、草は日常の食事、行は外食や宴会なハレの食事、真は何だろう?と、まだそこは考えている最中です。その答えも含めて、まずこの料理の世界でしっかりとやっていくことが今、一番の目標です」 そう話す佐藤さんは、昨年、結婚したばかり。奥様は洋菓子のプロで、現在は洋菓子や料理の教室を京都市内で開いているそうだ。良きパートナーを得て、最終目標に据えていた宿泊の仕事も含めて、今後は二人で、互いにやりたいこと、やっていけることを相談しながら、歩んでいきたいという。 新たな境地に立つ佐藤さんの料理が、これからどんな広がりを持って、どんな驚きを見せていってくれるのか、ファンならずとも楽しみにしたい。店名のユキフランは、母、幸子(ゆきこ)さんの名前から、「幸」の一文字をもらって、"この庵(店)に、幸多く降らんことを"という願いを込めて決めたという。美味しいものには人を幸せにする力があるということを、実感させてくれる。■ユキフラン佐藤京都市東山区新橋通花見小路東入ル2軒目南側八百平ビル1階奥075-531-3778※電話による完全予約制。料理はおまかせのコース(料金はその時の材料などの都合で15,000〜20,000円の間)のみ。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.12.25
「ELTESORO」(エルテソロ)-「Cantina ROSSI」の中川浩さん・美弥子さん夫婦が通う店
「Cantina ROSSI」のオーナーシェフの中川浩さんと妻の美弥子さん。 オーナーシェフの中川浩さんは、建築士として新しい町づくりなど、いくつもの都市開発のプロジェクトを手掛けてきた人。仕事で訪れたイタリアにすっかり魅了され、39歳のときに思い切って建築士をやめて、妻の美弥子さんと共にイタリアンレストランをオープンさせた。当時、たまたま親しくしていた「レストラン・フクムラ」の福村賢一オーナーシェフや、金沢の「イル・ガッビアーノ」の金山貴永オーナーシェフのアドバイスを得て、当時、まだ日本では先駆けともいえる生パスタを食べられる店として、口コミで多くのファンを獲得していった。パスタと並んでこちらもファンが多いドルチェは、美弥子さんが担当。夫婦の息のあったもてなしで、和やかな食のひとときを楽しめる。 祇園、縄手通に面したモダンなビル一階の奥深くに佇むオーセンティックなバー。ふと見ると艶やかなカウンターの上にいくつも美味しそうな焼き菓子が並んでいる。実はこれ、オーナーバーテンダーの大塚祐也さんの手作りだというから驚いてしまう。「カクテルもお菓子も大好きなんですが、この二つはよく似ているんですよ」どちらも素材の組み合わせや配合でさまざまな味のバリエーションが作れることや、クリームをどこまで泡立てるか、どこで止めるかといった呼吸は、カクテルのシェイクやステアに通じるというのだ。 もともとは静岡県で車の整備士をしていたが、ある時、バーで手伝いをした時にカウンター越しの接客の面白さを発見したという。縁がつながり、京都のバー「K6」に入り、8年間修業をしたのち、2006年に念願の自分の店をオープンした。昔からお菓子作りは好きで、その時にすでにお菓子教室にも通い続けており、自分が好きなお菓子とカクテルを楽しめるバーにしたいと、店のコンセプトを定めたという。鮮やかな手つきでカクテルを作る大塚さん。その手から、未知なる甘やかで美味しいカクテルが生み出される。 「とにかくカクテルがまるでドルチェみたいなんです!カクテルだけでももちろん美味しいのですが、カクテルにマッチングするドルチェを添えて出してくれるのも楽しいですね。いつも大体カクテルの種類はお任せですが、本当に美味しくて、その日の気分にぴったりくる味を作ってくれるんです」と話す中川さんは、妻の美弥子さんと二人でよくここに飲みにくるという。「僕も中川さんの料理が大好きで、妻と一緒によく伺うんですよ。お気に入りはアマトリチャーナ。あと奥さんのドルチェが、センスがとても良くて美味しくて、いつもすごく勉強になります」と大塚さん。 現在は、妻の寿弥さんも共に店に立って、夫をサポートしている。夫婦でお客さんとの会話を楽しみながら、息のあったもてなしがとても心地よい。 さっそく、その"ドルチェのような"カクテルをお願いしたてみた。最初に出てきたのは、エスプレッソ・マティーニとシナモンのパウンドケーキ。エスプレッソ・マティーニは、ウオッカをベースに、エチオピア・モカの豆を粗挽きにしてラムで漬け込んだ自家製コーヒーリキュールを合わせた、甘・苦のバランスが絶妙のカクテル。どこまでも濃く、深く、コーヒーの香りがずっと余韻となって染み込んでくる。その濃厚な味わいと添えられたシナモンケーキのよく合うこと...!パウンド生地はバターの代わりにオリーブオイルで軽やかに仕上げており、くるみと、なんと粗くおろした生のズッキーニが入っていて、しっとりした感と歯触りを生み出し、一口頬張るとたっぷりのラムレーズンとシナモンの香気ふわりと立つ。エスプレッソ・マティーニ ドルチェ付き 1300円。大人向けの濃厚な組み合わせ。ドルチェ単体は全て300円。 次に出てきたのは薄緑がかった美しいカクテル、サンジェルマンとクリームチーズのテリーヌのペアリング。シャルトリューズをベースに、グレープフルーツとレモン果汁の柑橘系を効かせて、泡立てた卵白を合わせて仕上げる。口に含んだとき、薬草と柑橘の香りが満ちて、高原の風が吹き抜けるような爽快感が広がっていく。そのあとにクリームチーズのテリーヌを食べるとクリームチーズの甘酸っぱさと生地の粒つぶ感がさらにフレッシュさを添えて、美味しさの連鎖が止まらない。カクテルとドルチェの爽やかさの相乗効果はクセになる!サンジェルマン ドルチェ付き1300円。クリームチーズにサワークリームを合わせて、ラストにコーンスターチを加えて仕上げるテリーヌは、滑らかでクリーミーな生地の中の粒つぶ感がたまらない。 ラストに登場したカクテルには、さらに驚かされた。その名も、イチゴのhフローズン。ぱっと見ただけでは完全にパフェ、なのに、口に入れるとちゃんとお酒が入っているのはわかる。 ゴディバのチョコレートリキュール、ブランデー、クランベリージュース、バニラアイスをブレンドし、大きめのカクテルグラスに入れて、フレッシュなイチゴを添える。「お酒の入ったドルチェとしても、カクテルとしても楽しんでいただけます」カクテルドレスを纏った貴婦人のような雰囲気のイチゴのフローズン、1300円。 お酒が弱い人には、お菓子だけでもオーダーできるのも嬉しい。ココアシフォンケーキはシフォンケーキの中でも人気の一品。オリーブオイルを使ってしっとりしながらも軽やかな味わいで、和三盆を加えて泡だてた生クリームはどこまでもなめらかで、ケーキにとてもよく合う。ホールでリクエストされることもあるというシフォンケーキ。ただ軽いだけでなくしっとり感が素晴らしい。300円。「ケーキをホールで欲しいというお客様もおられますよ(笑)」その気持ち、とてもよくわかる...!筆者もバースデイケーキをお願いしたいと思わず、考えてしまったほど。 材料を吟味し、丁寧に作ったドルチェと、同じように大切に作ったカクテル。二つの極上の味は、まさしく、幸せな出会いに他ならない。 もちろん、マンハッタンやギムレットなどのクラシックカクテルも、マスターはとても大切にしている。オーセンティックなバーとして楽しむもよし、ちょっと甘いものが食べたいなあと思う時に、ドルチェとカクテルのペアリングを楽しむもよし。「祇園のバーだからと言って、緊張などされずに、肩の力を抜いて、楽しくお酒を飲んでいただきたいです」(寿弥さん)。 カウンターの向こうで笑顔の二人が暖かく出迎えてくれるバー。そこには、甘いお菓子とお菓子のような素敵なカクテルが待っている。うっとりするような幸せな組み合わせを、大切な人とゆっくり満喫してほしい。仲の良い素敵な夫婦の会話に、こちらもすっかり打ち解けてしまう。寿弥さんは長年、呉服関係の仕事をしていた和風美人。キリリとしたバーテンドレスの服装もとてもよく似合う。■ELTESORO京都市東山区弁財天町19 大和ビル1F075-541-177016:00~翌3:00水・木曜休席料 500円、価格は税別、サービス料なし撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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2020.11.28
「Cantina ROSSI カンティーナ・ロッシ」-「Bistro Ceriser」椎葉正子さんが通う店
「Bistro Ceriser」の椎葉正子さん1998年にオープンした「Bistro Ceriser」は、現在、オーナー。店は椎葉さんがマダムとして切り盛りし、厨房はシェフの小森雄介さんが預かる。ブルゴーニュ、ガスコーニュ、リヨン、ブルターニュ、プロヴァンスなどフランス各地の郷土料理を提供している。「日本食でいえば、肉じゃがや茶碗蒸しのような身近なお惣菜のような存在のフレンチが好き」という椎葉さんは、どこか懐かしくてほっとする、そんな料理を楽しんでほしいといつも考えている。オープンキッチンで料理をする中川シェフ。お客さんとの会話も大切にしている。オーナーシェフの中川浩さんは、ユニークな経歴の持ち主だ。大学卒業後、大阪の建築事務所に20年以上勤め、建築士として新しい町づくりなど、いくつもの都市開発のプロジェクトを手掛けてきた。そのリサーチのために、イタリアを何度も訪れたそうで「町も人も料理もワインも大好きになった」とすっかりイタリアのファンになってしまった。阪神大震災の後、建築関係の仕事は多忙をきわめ、自分を振り返る時間もなく過ごしていたそうだが、まずは復興のために量をこなさなければならない仕事の環境に悩むようになり、39歳のときに思い切って建築士をやめて、この世界に飛び込んだ。「今、思えば我ながら、かなり思い切った決断だったと思います(笑)。たまたまですが、親しくさせてもらっていた「レストラン・フクムラ」の福村賢一オーナーシェフや、金沢の「イル・ガッビアーノ」の金山貴永オーナーシェフが親身にアドバイスをしてくれたんです。金山シェフなどは泊まり込んで、生パスタの作り方を伝授してくれました。オープン当初は、そのときにメモしたレシピ通りに料理をして、お客様に提供していたんですが、いま考えたら、よくやっていたなあとおもいますよ(笑)」。 京都のイタリアンを牽引してきた有名シェフと、金沢を代表するイタリアンの旗手、その二人の手ほどきを受けて、なんという贅沢な門出だろう?と今なら思えるが、イタリアンの店で修業をした訳でもなく、確かにかなり思い切った第二の人生の幕開けだったはずだ。シェフご自慢の生パスタ。小麦の滋味をしっかり味わうことができる。 当時、まだ珍しかった生パスタのメニューや、エスプレッソマシンの導入などで話題性も高く、さらに、細く、狭い路地裏の「こんなところにレストランが?」という意外性が話題を呼んで、口コミでお客さんが順調に増えていったという。すでに結婚していた美弥子さんと二人三脚で、現在まで店を懸命に切り盛りしてきた。 今も、初めて訪ねる時は「こんな住宅地の細い路地に店があるの?」と少々不安になるけれど、穏やかで心地よい店は健在だ。今も、自家製の生パスタはメニューの基本。喉ごしでつるりと食べる乾麺と異なり、生麺は」もっちりと弾力があり、よく噛み締めてこそ、旨味が伝わってくる。「生パスタはリガトーニ、タリアテッレ、スパゲティの三種を用意しています。生パスタはソースによく絡むのが魅力。ソースにももちろん大切ですが、パスタそのものもののおいしさを味わってほしいですね」前菜の「色々な野菜の盛り合わせ」1,200円(価格はすべて税込)。野菜の滋味とオリーブオイルの香味、絶妙の塩加減がマッチして、これだけでもワインのボトルが欲しくなる。「中川さんご夫妻とは、20年以上のお付き合いになります。よく双方のお店を行き来して、食事をしたり、食事を楽しんでもらったり。お店が終わるとそのままどちらかの店で飲み会が始まる...そんな感じで仲良くしてもらっています(笑)」(椎葉さん)。椎葉さんが店にくるとまず、注文するのがアンティパストの「色々な野菜の盛り合わせ」だ。インゲン、ナス、ズッキーニ、パプリカ、カボチャ、ポテトなど、とりどりの野菜をグリルやマリネした一皿で、カラフルな食材が食欲を誘う。シチリアやローマ近郊の美味しいオリーブオイルを厳選し、調理に使ったり、ソース代わりに料理にかけたりと使い分けているが、オリーブオイルの香りが素晴らしく、野菜の旨味や甘みをよく引き出している。塩、コショウといったシンプルな調味料だけで、深くコクのある野菜の味を生き生きと楽しむことができる。「これ以上、シンプルなパスタはない!」という中川さんご自慢の一皿。「カーチョエぺぺ」1,300円。削りたてのペコリーノ・ロマーノと挽きたての黒胡椒が、鼻腔をくすぐる。生パスタ本来の味わいとペコリーノ・ロマーノの質がすべてを決める一皿。椎葉さんのお気に入りのパスタは、メニューの中でも最もシンプルな、「カーチョエぺぺ」。削りたてのペコリーノロマーノと挽きたての黒胡椒をたっぷりと使い、パスタの茹で汁で練るように混ぜて、ゆでたてのスパゲティにしっかりとからめる。「塩味は、茹で汁の塩味とペコリーノの塩味のみ。生スパゲティは太めで重量があり、しっかりした噛みごたえで、濃厚なソースによく合います」と中川シェフ。 メニューは、アンティパスト、プリモ・ピアット、セコンド・ピアット、ドルチェで構成されている。前菜を何種類かとパスタだけで軽く食事をするもよし、メインのセコンド・ピアットもしっかりと味わって、コースのように楽しむもよし。夜はアラカルト中心だが、初めて訪れる時は、シェフおまかせのコース(3,700円〜)もおすすめだ。ちょっとした室内の小物にもオーナー夫妻のセンスが感じられる。右からシチリアのロゼ、ピエモンテの赤、ローマ近郊の白、シチリアの赤。各地のワインを地酒のように楽しむイタリアのワインは、どれも気候風土に育まれ、個性に溢れて魅力的だ。ボトル2,500円〜、グラス650円〜。 ワインももちろんイタリア各地のものを常時20種ほど揃える。ワインリストにイタリアのワインマップが挟んであって、地理を確かめながらワインを選ぶのもなかなか面白い。各地の気候風土が醸すワインの個性を地酒のように楽しみたい。「今は新型コロナでなかなか海外に行けませんが、それまでは毎年、二人でイタリア食紀行の旅をしていました。馴染みのレストランやチーズ屋さんを訪ねたり、各地の郷土料理やワインを味わったり...。また行けるようになるといいですね」と話す奥さんの美弥子さん。椎葉さんも必ず締めに注文するというドルチェは、美弥子さんが主に担当している。今日のおすすめは「アーモンドとキャラメルのセミフレッド」500円。ムース仕立てのお菓子を凍らせた一皿。アイスクリームとも、ムースともまた異なる食感で、冷たすぎず、ふわりとした口溶けがとても不思議な美味しさで、後を引く。キャラメルとナッツの香ばしさが寄り添って、仕上げのアマレッティの香りが華やかに漂い、一口、またひと口とペロリと食べてしまった。ナッツの香ばしさ、キャラメルの甘苦い味わい、不思議な口溶け。すべてが魅力的な「アーモンドとキャラメルのセミフレッド」500円。前菜からドルチェまで、本当に最初から最後まで、ワインと共にじっくりと味わいたくなるものばかり。料理ともてなし、店主夫妻の人柄。居心地が良くて、つい長居をしたくなってしまうのは当然だが、さらに店内空間の造りも素晴らしい。そう、建築士らしく、店の設計はもちろん中川さんによるものだ。暖かく、穏やかな雰囲気は、イタリアの田舎のワイン蔵をイメージしたのだとか。「イタリアに親しい友人がいまして、彼の家の地下に素晴らしいワイン蔵があるんです。彼の家に遊びに行くと、必ず、ワイン蔵で何時間も過ごします。友人からもヒロシはワイン蔵に住めるね、と言われています(笑)」 夫婦の和やかなもてなしと気取りのない会話。寛ぎの空間で、美味しい料理をゆるりと楽しみつつ、ひととき心身を休めてみてはいかが。白壁、レンガ、木。自然な素材が醸す温もりはとても心安らぐ。中川さんが設計した店内は、まさにワイン蔵にいるような落ち着きを感じる。夫婦の息のあったおもてなしと楽しい会話にこちらも笑顔になる。二人に会いに、また、すぐ訪ねてきたくなるような一軒だ。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■「Cantina ROSSI」京都市左京区吉田泉殿町 57-1075-751-6422ランチ12:00~14:00(LO)、ディナー:18:30~21:00(LO)日曜・祝日休(不定休)
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2020.10.10
「Bistro Ceriser」-「料理処はな」青山孝さん・美由紀さん夫婦が通う店
「料理処はな」の店主、青山孝さん・美由紀さん 店主の青山孝さんは、大学卒業後、法曹人を志していたが、30歳を契機に料理の世界に入った。調理師学校で一から学び、京都の老舗、「京料理 道楽」で修業したのち、大阪・天満にて地鶏料理の店、「地鶏焼 でんえん」を開店。3年後に、当時、イタリア料理店で勤務しており、のちに妻となるソムリエールの美由紀さんとともに、「料理処 はな」をオープンさせた。夫婦で茶の湯の稽古に通い、とくに魯山人の食への意識、器との取り合わせなど当意即妙な芸術観や料理スタイルに関心が広がり、当時の調理法などを深く掘り下げて学んでいる。重厚な木の温もりに包まれる店内。家族や友人とくつろいで食事ができる。1998年にオープンした「Bistro Ceriser」は、現在、オーナーの椎葉正子さんがマダムとして切り盛りし、厨房はシェフの小森雄介さんが預かる。 「料理は昔から変わらず、クラシカルなフランスの郷土料理を提供しています。アルザス、ブルゴーニュ、ガスコーニュ、リヨン、ブルターニュ、プロヴァンスなどフランス各地の郷土料理は、たとえば日本食でいえば、肉じゃがだったり、茶碗蒸しだったり、いわゆる身近なお惣菜だと思うんです。どこか懐かしくてほっとする、そんな料理を楽しんでいただきたいと思っています」(椎葉さん)。「僕がここに通い始めたのは23年前のことです。最初に伺った時から価格を超えた料理とサービスに感動しました。きちんとしたフレンチに触れたのはこのお店が初めてだったかもしれません。全ての料理の根底には、肉、魚、野菜などの素材から丁寧に抽出したフォン(だし)の深い味わいがあって、郷土料理の力強さを実感しました。以来、大ファンになり、ずっと通っています」(青山さん) 青山さんおすすめのパテ・ド・カンパーニュは、豚ミンチ、豚レバー、グリンペッパー、くるみハーブ各種を合わせて、アルマニャックの香りを添える。材料をなめらかになるまで混ぜて、背脂で包んで蒸し焼きにするという実にオーソドックスな作り方を守っている。「パテ・ド・カンパーニュはフレンチの定番ですし、いろいろな店で食べましたが、ここほど自分の好みにマッチした味は他にはないですね。肉の重量感があって、ねっとりとレバーの風味と血の気を感じさせて、それでいて決して重すぎない。軽くてスパイシーな赤ワインといつも楽しみます」(青山さん)くるみの食感が程よいアクセントのパテ・ド・カンパーニュ950円。添えられた季節の新鮮野菜とよく合う。※価格は全て税別。青山さんがここにきたら必ず注文したくなる料理の一つが、アルザス風シュークルートだ。シュークルートとは、キャベツの酢漬けで、アルザス地方を代表する保存食のひとつである。 見るからにボリューミーな一皿は、初めて見るひとはきっと驚くに違いない。ハーブやニンニクを利かせたソミュールという塩水に漬け込んだ豚のすね肉の煮込み(アイスバイン)に、自家製トゥールーズ風ソーセージ、フランクフルト、ロースハム、ベーコンなど自家製のシャルキュトリがたっぷりと盛られ、その下にシュークルートがこれまた、どっさりと隠れている。さらに、じゃがいもとにんじんが添えられて、二人でシェアするとちょうど良いサイズだろう。「シュークルートも大切な主役。とんかつのキャベツのような添え物と思われがちなのですが、肉と一緒にシュークルートもぜひ楽しんでください」(小森さん)「この料理には、白ワインを必ず合わせます。とくによく冷えたリースリングとのマリアージュは素晴らしいと思います。ワインの心地よい味わいが、肉と野菜の塩気をまろやかに包み込んでくれて、最後まで食べ飽きしません。フランス郷土料理の熱々のおいしさを実感できる一皿です」(青山さん)シンプルでいて、フランスの郷土料理の真髄が味わえる一皿、アルザス風シュークルート2900円。よく冷えたアルザスのリースリングがことのほか合う。「デザートは迷うことなく、ブラン・マンジェを注文します。一人で通っていた時も、妻と二人で来るようになってからも、子どもができて一緒に食べに来る時も、店のスタッフを連れて来る時も、みんなが美味しいと喜んでくれる締めの一皿ですね。マダムとシェフの思いがこもったデザートだと思います」(青山さん)シェフおすすめのブラン・マンジェとキャラメルアイスの盛り合わせを頼んでみる。濃厚で香ばしいキャラメルアイスは、焦しキャラメルをつくり、ミルク、卵、生クリームをあわせて冷やしたもの。どこまでも、なめらかで後を引くおいしさにうっとりする。ブラン・マンジェは、ホールのアーモンドを砕いて、ミルク、生クリームとあわせて、香りをよく移してから、濾してゼラチンで固める。つるんとして、アーモンドの深いコクが感じられ、いつまでも甘やかな余韻が残る。コクのあるブラン・マンジェとほろ苦さと香味が際立つキャラメルアイス600円。「郷土料理のレシピはとてもしっかりしていて、美味しい。それを崩す必要はないんです。せっかくそれで美味しいのに、日本人向けの料理にしようとは思っていません(笑)」(小森シェフ)ソースの濃厚さやバターやクリームの重たさ、時にジビエな内臓のクセなども個性として一皿にしっかり表現していきたいという小森シェフ。この店のジビエを待ち兼ねるファンも少なくないと聞くが、それもうなずける。左:昔からマダムが大切にしているフランス郷土料理の本。右:ワインはフランス各地のものが揃う。「昔、とても寒い時期に開店前に来てしまったことがあって...。店内でお待ちくださいと招き入れてくれて、マダムが温かなカプチーノをご馳走してくれたんです。そのおもてなしが嬉しくて、妻にもよくその思い出話をするんです」(青山さん)マダムの椎葉正子さん。とても明るくて笑顔が素敵な女性。一皿のボリュームが半端ないので、二人でなら前菜二品、メイン1品、デザートとで十分満たされてしまう。分け合って食べる楽しさもまた、この店の魅力だろう。クラシックな郷土料理と心からくつろげる笑顔とサービス。古き良き時代の人の温もりがここにはある。またすぐに癒されに行きたくなる、ここはそんな場所なのかもしれない。撮影/津久井珠美 取材・文/ 郡 麻江■「Bistro Ceriser」(ビストロ・スリージェ)京都市左京区田中下柳町1−3075-723-5564ランチ12:00~14:00(LO)〔※月曜〜金曜はガレットランチ、土日はビストロランチ〕、ディナー:18:30~21:00(LO)木曜、第3水曜定休
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.09.11
「Gori'sKitchen ゴリーズキッチン」-「PIZZERIA DA NAGHINO ピッ ツェリア ダ・ナギーノ」三條実永さんが通う店
「PIZZERIA DA NAGHINO ピッツェリア ダ・ナギーノ」のオーナーシェフ三條実永さん東京生まれ。グラフィックデザイナーを目指し、研修のため、イタリアのデザイン会社で働くことになったが、不思議な縁でナポリのピッツェリアで働くことに。その時食べたピッツァの美味しさに衝撃を受け、そのままナポリのピッツェリアで修業を続行する。ナポリでは、ピッツァイォーロという生地づくりから全体を統括する職人と、フォルナイヨという焼きを専門とする職人とに、作業の役割分担がはっきりしているが、三條さんは、まず焼き方としてスタートし、最終的にはピッツァイォーロのサブを勤めるまでになった。帰国後は、東京の「ピッツェリアGG」などの名店で働き、さらにシンガポールで4店舗のピッツェリアを展開するなど、ピッツァの道を一筋に歩む。自分の店を持つにあたって、公家の出身である三條さんは父祖の地である京都での開業を決意。2018年8月、「PIZZERIA DA NAGHINO」をオープンさせた。「店主の足立充憲(みつのり)さんとは、ナポリで修業中に出会ったんです。あの頃は、遠い将来の夢を漠然と語っていましたが、10年後、いろいろな経験を積んだあと、偶然、二人とも京都に店を出すことになり、ご縁を感じています。その後、互いの店を行き来するようになりました」(三條さん)店主の足立さんは、大阪の「Ristorante e Pizzeria SANTA LUCIA」で4年半、修業して、その後、さらに腕を磨くために南イタリアに渡った。現地のトラットリアで働いている時、三條さんと出会い、親しくなったと言う。 帰国後は、大阪の「asse(アッセ)」で5年働き、地元の京都に戻る。資金を稼ぐのと、他の世界もみておこうということで3年ほど不動産営業の仕事に就いたのち、2016年に自分の店をオープンさせた。「イタリア料理には、トラットリアやピッツェリアなどさまざまな業態がありますが、僕自身はナポリピッツァを中心にしながらも"僕が食べたいもの"をしっかりメニューにあげていくような店にしたいと考えました」(足立さん) なるほどメニューには、ナポリピッツアの定番と季節のおすすめ約20種のほか、前菜、メイン、パスタ、デザートなど多彩な料理が並ぶ。「気軽にきて、いろいろな料理を注文してもらって、ワイワイ賑やかに食事を楽しんでもらえるそんな店にしたかったんです。一人でも、家族連れでも、パーティーでも、軽い食事からがっつりディナーまで、どんな風にも利用できる使い勝手の良い店やと思います」(足立さん)温かくアットホームな雰囲気の店内。賑やかに人が集う場所。「うちのピッツァはナポリ風のどっしりとした生地ではなく、もう少し軽くてモチモチ感を重視した生地にしています。前菜やメイン、パスタなど自慢の料理がたくさんあるので、ピッツァだけでお腹いっぱいということがないように工夫しています」 特製のピザ窯で焼かれたピッツアは、確かにモチっとした食感で、それでいてカリッとクリスピーで軽やか。トッピング素材も一つ、ひとつ足立さんが厳選したもので、味わい深いだ。人気No.1の「ゴリーズピッツァ」1490円はマルゲリータにさらに工夫を重ねたもの。京丹波「ミルクファーム すぎやま」のジューシーなモッツアレラチーズを使用している。自家製のトマトソースはじっくり煮込んだ濃厚な味わいで、モッツアレラとのバランスが絶妙。※価格は全て税別。ピッツァは丹波篠山『Kuwa Monpe ( クワモンペ)』特製の窯で、高温でさっと焼き上げる。メイン料理の中の人気№1はこちら。亀岡産の「七谷鴨ロースのオーブン焼き」2490円。上質なロースの皮目をこんがり焼いて、オーブンで低温でじっくり焼き上げたもの。しっとりと柔らかく、肉の旨味がいっぱいに広がる。野趣と洗練が一つになった見事な一皿。「店主のガタイの良さからは想像のつかない(笑)、繊細な味わいが本当に魅力です。ピッツァや料理はもちろん、ドルチェも全て手作りで素晴らしい味わいですよ」(三條さん) 三條さん一押しのドルチェはティラミス。人気の瓶入りティラミスは、マスカルポーネ、玉子、生クリームのシンプルな素材を泡だてて、もったりとしたクリーミーな味わいに。エスプレッソコーヒーを染み込ませたサボイアルディのほろ苦さが味のアクセントになっている。キャラクターが描かれた瓶入りティラミス390円。プレーン、抹茶、ほうじ茶の3種類がある。お土産にもぴったり。他にもバスク風チーズケーキ、ガトーショコラ、季節のタルトなどが揃う。ワインはイタリア産が中心。ボトル2000円〜、グラスワイン400円〜というプライスも嬉しい。 新型コロナの影響で、世の中が変化しつつあるが、足立さんも新たな展開に挑戦することを決めた。キッチンカーにピッツァ窯を積み込んで、いろいろな場所に出張するという新サービスだ。明るいブルーの車体のキッチンカー。足立さんはあちこちに出かけて、ゴリーズの味を伝えたいと笑顔を見せる。1万円以上の注文があればキッチンカーをオーダーできる。問い合わせは店まで。「ご自宅の駐車場があれば、キッチンカー出前はOKです。メインや前菜はケータリングスタイルで運んで、お好きなピッツァをその場で焼いて、焼き立てを味わっていただけます。世の中が大きく動いていく今、僕も新しいことにチャレンジしないといけないなと...。幸い、リピーターのお客さんには今までと変わらず来店いただいていますが、これからはおうちでプロの味を楽しむニーズがより増してくると思いますし、そういう流れにもしっかり応えていきたいですね」「難しい時代だけれど、笑顔で乗り切っていきたい」という足立さん。明るく飾らない人柄がお客さんに愛されている。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■Gori's Kitchen ゴリーズ キッチン京都市南区上鳥羽菅田町65番地1F075-200-9304平日11:30~ 14:00(13:45 LO)、18:00~23:30(23:00 LO)、土・日・祝11:30~ 14:30(14:15 LO)、17:30~22:30(22:00 LO)無休(年末年始は休み)
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.09.02
「酒処てらやま」-「炭焼みはな」長手未華さんが通う店
「炭焼みはな」店主 長手未華さん昔から食べることが大好き。大学時代、飲食の仕事に興味を持ち、この世界に進む。イタリアンの「La Camartina」や、鶏料理の「侘家古暦堂」などで修業を積み、昨年、自身の店をオープン。本人も大好きという、焼き鳥とナチュラルワインを提供。関西では数店舗しか扱いのない、丹波・高坂鶏も使用。夫は、イタリアンの「Lapintaika」のオーナーシェフ、正彦さん。なんとも心地よさげな店内は、先斗町の店の空気感そのまま。カウンター席のほか、テーブル席、二階の座敷がある。 先斗町に店がある頃から、予約がなかなか取れないという人気店だった「酒処てらやま」は、昨年、4月に現在の場所に移転。綾小路通から細い細い路地を入った奥に、以前と変わらぬ温かなくつろぎをもたらす空間が佇んでいる。「女将の絵里佳さんは、以前、私が勤めていた店の後輩で、今でもとても仲良しです。彼女から寺山さんを紹介してもらったのですが、可愛い後輩の彼ということで見る目が厳しかったのかなと思いますが(笑)、当時、彼は私をちょっと怖がっていたかも...(笑)。今では夫婦同士仲良くなって、お店も行き来させてもらっていますが、寺山夫妻から学ぶこともとても多いです。お店は気軽に行ける雰囲気と使い勝手の良さが気に入って言います」(長手さん)「長手さんは仕事仲間やご友人とよく来てくださいます。一軒目として食事とお酒を楽しまれたり、二軒目に軽く一杯飲みに来られたり。自分の店を始めるとき、まさしくそういう店でありたいと考えたので、こんなふうに使っていただけるのが一番嬉しいですね」(寺山さん) 主人の寺山主一(しゅういち)さんは、長年、京都の料理屋や居酒屋で働き、最終的に「食堂おがわ」で修業して、2017年に、先斗町に自分の店をオープンした。「『食堂おがわ』では、割烹店としての味をしっかり提供しつつ、店の主人もスタッフも揃いのTシャツにエプロンというカジュアルなスタイルに新鮮な驚きを覚えました。いつか自分もこんなふうに、料理がうまくて、いろいろなお酒を揃えていて、でも気取りがなく、カジュアルに楽しめる店をやりたいと思うようになったんです」 "料理はシンプルに"が基本。しかしそれは単に素材の持ち味を活かすということだけでなく、吟味した素材に自身の感性と技を重ねて、ちょっとしたサプライズを加味した『てらやま』らしい味わいを打ち出したいと考えている。旬味旬菜を取り入れた一品料理とお酒をその日の気分で楽しむ。おすすめの一杯は自家製レモンチューハイ700円だ。自家製の国産レモンの砂糖漬けで作ったレモンチューハイは、爽やかでほんのり甘く、これからの季節にもぴったり。「先斗町の時は、店が狭くて、席数も少なかったのですが、今は二階の座敷を入れると倍の席数になりました。スタッフも増やして、できるだけ多くのお客さんに楽しんでほしいと思っています」(寺山さん) 新しい店になっても先斗町の頃の雰囲気を大切に守っている。L字の木のカウンター(以前はコの字型)の艶めいた深い茶色や壁の風合いなど「前と雰囲気は変わらんなあ」と常連さんが喜んでくれているという。二階の座敷席は2組まで利用できる。1グループで6〜7人になると貸切にしてくれるというのは嬉しい。「いつも季節のお造りや定番の一品ものの中から、その時の気分で注文しています。女将の実家がある丹後から届く新鮮な魚介類があれば必ず注文します。友人と行くことが多いんですが、カウンター席に座って、BGMの昭和の歌謡曲を聴きながら、まったりと料理とお酒を楽しむのが好きです」(長手さん)「うちのBGMの最新曲は松田聖子ちゃんくらいでしょうか(笑)」(寺山さん)。 料理は基本、日替わりで提供する。造り、焼きもの、揚げもの、蒸しものなど、その日の仕入れで30〜40種ほどの一品料理に、〆のチャーハン、酒処カレーライス、にゅうめん、土鍋ご飯などが揃う。 野菜は地元のものを中心に、魚介は丹後の魚屋さんから毎日直送されたイキのいいところを、様々な味わいで提供する。泉州の旬の水茄子とトマト、新玉ねぎをさっぱりとしたドレッシングで合わせた水茄子とトマトのサラダ600円。オリーブオイル、酢、醤油にエシャロット、ニンニクなどを隠し味にした女将特製ドレッシングと相性よし。良い鯖が手に入った時は必ず〆るという、ほぼ定番のきずし1000円。酢でよく〆た昔ながらの味わいだ。炭火で焼いたうなぎの白焼き。皮目はパリッと香ばしく、身はふんわりしっとりとした食感。広島・海人(あまびと)の藻塩を使っている。先斗町の頃からの名物の〆料理、和牛炭焼サンドイッチ2500円。旨味豊かな和牛のモモ肉を炭火で炙り、塩、コショウのほか、ケチャップ、ウスター、玉ねぎみじん切りを合わせたソースに辛子をピリっと効かせて。パンも炭火で炙るのでとても香ばしい。切り落とした耳スティックがまた味わい深い。「僕が酒好きなので、この酒に合うのはどんな味かな?とか、この酒には是非この味を合わせてみたい!とか、どうしても、酒飲みの感性で作る料理というか(笑)、お酒に合う肴といった料理が中心になってしまうんですが、これからはもっといろいろなジャンルの味にも挑戦していきたいと思っています」(寺山さん)日本酒は丹後・伊根の「京の春」や寺山さんの出身地の広島の「ずいかん」、などを取揃えている。鹿児島の国産ウイスキー「MARS」はハイボールで飲むのが人気。 縄のれんをくぐれば、そこは昭和の歌謡曲が流れる世界。とくれば、昭和生まれにはたまらない懐かしさがこみあげてくる。その中で進化していく新たな『てらやま』の味を、推薦者の長手さんのようにまったりと味わってはいかがだろうか。女将の絵里佳さんと息のあったもてなしが、しみじみと心地いい。■酒処てらやま京都市下京区綾小路足袋屋町317−11075-708-723717:00~23:00(LO22:00)木曜定休※予約がベター
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.08.28
「聖護院嵐まる」-「すし甚」西川政明さんが通う店
「すし甚」西川政明さん16歳からこの道に入って50年以上。昭和56年に「すし甚」をオープンした西川さん。お店があるのは、銀閣寺道バス停から徒歩すぐの場所。ジャズの流れる店内で、価格以上においしい寿司づくりを続けている。奈良県下の日本料理店を皮切りに、石垣島のホテルシェフ、祇園の割烹などで修業を重ねた佐藤泰樹さんが自分の店を開いたのが平成8年のこと。「敷居を高くせず、老若男女を問わず、美味しい和食を楽しんでいただける店にしたいという思いを込めて、自分の店を開きました」(佐藤さん)カウンターとテーブル、奥の座敷などこぢんまりとして居心地のいい店内。「海鮮がとにかく美味しいので、美味しい魚が食べたい!という時によく行かせていただいています」(西川さん)「西川さんとは祇園で働いている時からのご縁で、もう30年以上、お付き合いいただいています。互いの店もよく行き来させていただいて、料理のことや魚のことなど楽しく話をさせていただいています」(佐藤さん) 開店当初は、魚介も扱っていたが、おばんざいや創作料理などを中心にメニューを揃えていたという佐藤さん。しかし、年月を重ねるほどに「ほんまもん、それも究極をお出ししたい」という思いが強まっていったという。「じゃあ。ほんまもんって何や?ということなんですが...(笑)。自分が扱う食材の中で、究極までほんまもんを追求できるのは、魚かな?と思ったんです。自分が海に行って釣ってくる魚ほど、新鮮で安心できるものはないですよね。僕が◯◯で釣った魚です!と胸を張ってお客さんに言えますから」(佐藤さん) 15年ほど前から釣りを始め、今ではもうベテランの域。今日はここにいい魚が揚っているという情報を聞けば、日本海や瀬戸内海など、すぐ現地に出向いて釣ってくるのだという。現在は平均、週に2回ほど釣りに出かけ、新鮮な魚を提供している。ショウケースに本日の魚がぎっしり。この中にご主人の釣った獲物も...。 釣ってくるだけではない。魚は下処理、特に「血抜き」が非常に大切だと佐藤さんはいう。「血抜きをどのタイミングでするか、そのあと少し寝かせて脱水させるのですがその時間も大切です。きちんと下処理をしてこそ、本当に旨い魚をお客さんにお出しできるんです」もちろん市場で買ってくる魚も使うが、買ってきた魚も改めて自身の手で血抜きをするというほどのこだわりよう。自身が血抜きをすることで、さらに魚の味がよくなるのだそうだ。 客層は地元・京都の人がほとんど。やはり人気なのは、西川さんも必ず注文するというお造り盛り合わせだ。二人前で8種類ほどの魚介が盛り合わせてあり、質・量ともに半端ない。魚介好きならこれだけでワクワクと嬉しくなってしまうだろう。本日の造り盛り合わせ二人前3000円〜(価格は全て税別)。写真はイシカゲ貝、オナガダイ、ハモ、ビワマス、本マグロ、シマアジ、明石蛸、剣先イカ、シラサエビがたっぷりと盛り合わせてある。このうち、明石蛸と剣先イカは佐藤さん自らが釣ったもの。こちらは名物の「蛸と海老のエスカルゴ風」1480円。蛸を海老を使ってオリーブオイル、ニンニク、パセリ等と一緒に調理するが、店独自の味付けがあるそうだ。それは「企業秘密です、笑」だとか。アコウの煮付け。写真は3〜4人前で3000円。脂がよくのっているので、煮汁はあっさりと仕上げている。酒のアテにご飯のおかずにもよく合う味わい。あまり流通していない小さな蔵元の日本酒が、定番ものと季節限定種など常時15種類ほど揃う。壁には漁船や釣り道具メーカーのステッカーがぎっしり。品書きには、造り、一品、焼きもの、揚げ物、ごはんもの、寿司がずらり。海鮮料理と和食が中心だが、ホテルシェフ時代に洋食を学んだ経験を生かして、前出のエスカルゴ風やパスタ、カツ、ステーキなど洋風の料理も揃う。 奥さんの香織さん、息子の嵐志さんと共に、家族で息の合った温かなもてなしも、嬉しい。「旨い魚が食べたい!」というときはもちろん、「いろいろな料理とお酒を」「がっつりごはんを食べたい」などなど、どんな要望にも、真摯に、美味しく応えてくれる一軒だ。お客さんから贈られた魚柄のマスク。息子の嵐志さんと。「将来は店を息子に任せて、僕は仕入れ専門で釣り三昧もいいなあと思ってます(笑)」撮影/津久井珠美 取材・文/ 郡 麻江■聖護院嵐まる京都市左京区聖護院山王町28075-761-242117:30~24:00(LO)23:30月曜定休
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