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BLOG料理人がオフに通う店2019.02.04

「CINQ pain(サンク パン)」―「リストランテ ナカモト」仲本章宏さんが通う店

「リストランテ ナカモト」仲本章宏さん

プロフィール
シエナ「バゴガ」、フィレンツェのミシュラン3つ星店「エノテカ ピンキオーリ」と6年間のイタリア修業を経てニューヨークへ。2011年に実家のある木津川に「リストランテ ナカモト」をオープン。決してよい立地とはいえない場所にありながら、多くの美食家が、遠路はるばる足を運ぶ。3040代の料理人との交流も深く、年間6回ほど主催する勉強会には京都・大阪・奈良・神戸から2030名が集まり、関西の食文化の幅を広げている。

おすすめコメント

「リストランテ ナカモト」をオープンしたばかりのころ、宮本正幸シェフが食事に来てくださいました。その時は名乗られなかったのでわからなかったのですが、後日、パンがどっさり届いたんですよ。宮本さんとしては「料理のお礼と名刺代わりに」というお気持ちだったようです。箱を開けた瞬間から小麦の香りが広がって、「これは普通のパンじゃないぞ」と思いました。そして口に入れた瞬間、そのことをさらに確信しました。「いったい何者なんだ!?」と調べたところ、ただものではないパン職人であることがわかったんです。

関西の料理人の間では、「CINQのパンをレストランで出せばミシュランの星が取れる」と囁かれています(笑)。実際、フレンチレストラン「Restaurant MOTOÏ(モトイ)」「レーヌデプレ」、イタリアンレストラン「リストランテ キメラ」、スペイン料理「aca 1°(アカ)」など、確かな味を提供するお店がCINQのパンを愛用されています。

私は自分でパンを焼いているのですが、宮本さん主催の勉強会でパンづくりを学んだのがきっかけです。でも宮本さんのような、パンへの愛情にあふれ、美学がこめられたものはなかなか焼き上げることはできません。CINQのパンをほおばりながら、宮本さんのパンへの想いに心を馳せるのが至福のひと時です。

CINQ pain(サンク パン)

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名神高速道路の大山崎ジャンクション近くという、クルマでなければなかなか行きにくい場所にあるブーランジェリーに、8時のオープンからぞくぞくと人が集まる。

「休日に、クルマに乗って家族と遠足気分でうかがいます。午後に行くとほぼ売り切れ。ですので、午前中に行くことをおすすめします。それでもお昼近くにはパンの種類もわずかなので、そんなときには残っている全種類を買っています」

さて今日は、どのパンを手に入れることができるだろう......?

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「ハード系のパンって、硬すぎて噛み切れないものが多いですよね。ところがこちらは外はガリッ、そこから中へサクッと歯が入るんです。そしてとっても香ばしい! CINQでハード系パンへの概念が変わってしまいました。これはどれだけ学んでも、同じようには決してつくれません」

「パン・コムニコ」1/4サイズ525円(税込み)は、奈良のイタリアンレストラン「コムニコ」の「数日かけて、お客さんみんなで分かち合えるように、大きいパンがほしい」というリクエストから誕生した。イタリアンに合うように、見た目はハードだが歯切れがいいという、ハードとソフトの中間を目指したという。まるごと(1950円)だと直径30センチほどあるビッグサイズだ。

「家ではチーズをのせて焼いたり、ジャムをつけたり、サンドウィッチにするなどして楽しんでいます」

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「バターの香りが立ち昇るクロワッサン(216円)も、残っていたら大喜び。これもまた、とても歯切れがいいんです。こんなに香ばしく焼くことはできませんよ。クロワッサンひとつのなかに詰まった宮本さんの哲学を感じながらいただいています」

クロワッサンは職人によって、食感や味に大きな差の出るパンだと宮本さんは言う。

「パンは本来自ら熟成するものです。ところがクロワッサンの場合は生地に折り込むバターの状態を保ち生地の発酵を抑えるために、急速冷凍と冷蔵を繰り返して生地を折り込んでいきます。つまり、パンがやろうとしていること(熟成しようすること)を人間の手で止めているんです。パン自体に委ねるという、ほかのパンのつくり方とは真逆なんですよ」(宮本さん)

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京都のフレンチレストラン「Restaurant MOTOÏ」でも提供されているプティ(バゲットの小さいサイズ)を使った「パテサンド」356円。パテ好きの宮本さんは、パテも自家製だ。粗目の肉で食感がありながら、口の中でほろっとほぐれる心地よさ。パンと混然一体となった豊かな風味は、酒のつまみにもピッタリだ。

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オリーブオイルを練りこんだ「シャバタ」は、フレンチ、イタリアン、スパニッシュなどのレストランでもよく提供されている、どんな料理にも合いやすいソフトパン。これに生ハム、セミドライトマトをはさんだ「生ハムサンド」334円は、モチッとしたパン生地にセミドライトマトのふわりとした半生食感と、生ハムの塩気が絶妙なバランスで存在している。

「シャバタはフォカッチャに似ている食感で、オリーブオイルの風味が顔を出します。子供が大好きで、もりもり食べます(笑)」

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最初に勤めた店を経て、ハード系パンと焼き菓子をきちんと学びたい――そう考えていたころに、大阪随一と称されるブーランジェリー「ル・シュクレクール」と出合い、味に惚れ込んだ宮本さん。弟子入りを願って1カ月間毎日、店に通い続けたという。その熱意が認められ、オーナーシェフの岩永歩さんからマンツーマンでの指導を受けることになった。

修業時代に師から言われ続けてきたのは「パンの声を聞く」ということ。よいパンをつくりたいのなら、パンと向き合い、パンに気を遣う。パンは環境によって様子は変わる。汗をかくことだってある。それに気づき、美味しくなる手助けをしてあげることが大切だと学んだという。

「自分本位ではなく生地に合わせているから、宮本さんのパンはいつ行っても満足できるんですよね」

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3年の修業を経て2010年に独立し、対面販売のみの2畳ほどの小さな店舗を長岡京市に構える。だが駅から遠いのに駐車場はなく、手狭にもなっていった。そこで駐車場があること、そしてイートインもやりたいという願いをかなえるため、2016年に大山崎のこの場所に移転した。

「洛西出身なので土地勘のある長岡京や大山崎がよかったんです。パン職人は日々、工房にこもって作業しているので、街中でなく四季を感じられる場所で仕事がしたくて。ここは目の前に桜の木もあるので理想的です」(宮本さん)

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今でも対面販売のスタイルだが、カウンターの前には購入したパンを飲み物とともに楽しめるイートインスペースが広がる。

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「北欧っぽさも感じる、柔らかな日差しにほっこりする店内です。家具は京都のオーダー家具店『フィンガーマークス』製。宮本さんの主催されたBBQ会にフィンガーマークスさんも参加されていて、そのときにご縁をいただき『リストランテ ナカモト』でもテーブルと椅子をお願いしました。宮本さんは直接的に"この人は〇〇さん"と紹介することはないのですが、こうした会でさりげなく、人と人を引き合わせてくれるんです」

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「こちらに移られてから、ビールやワイン、ジュースなども販売されるようになりました。どれも宮本さんが厳選されたことが伝わる品ぞろえです。ワインはすべて国産。宮本さん自らワイナリーに足を運んで選んでいらっしゃいます。国産だと土地の名前がすっと頭に入ってきて記憶しやすい。ナチュラルなものが多いことを知ってほしい。そして何より、自分自身の目で確かめたものを置きたい――そういう姿勢も宮本さんらしいな、と思います」

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「宇和島みかんジュース」918円と「青森産りんごストレートジュース」237円。みかんジュースは、オープン祝いに旧知のシェフが贈ってくれて、その味に心打たれたそう。聞くと、そのシェフのお兄さんがつくっているものだった。イートインでもグラスで味わえる(345円)。

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鹿児島県鹿屋市のふくどめ小牧場の肉加工品も販売している。父と兄が牧場で飼育した豚を、ドイツで7年間ハム・ソーセージ製造を学びマイスターの資格を持つ弟が加工するという、完全家内制だ。

「品数をたくさん置くのではなく、つくった人たちの想いが詰まっているものをおすすめしたいんです。こうしたものの販売を始めたのも、"CINQに来ればパンもあるし、食材も飲み物もある。食事が完結できる場所だな"と思っていただきたかったから。ご家族の食卓が豊かになるお手伝いをしたかったんです。仲本さんはご家族との時間をとても大切にされています。そんな方の休日の大切な家族団らんに、CINQを選んでくださるのがとてもうれしいです」(宮本さん)

「美味しくなりたい」というパンの願いがたわわに実ったCINQへ、次の休日もまた仲本さんはご家族とともにクルマを走らせるのだ。

撮影 瀧本加奈子  文 竹中式子

■ CINQ pain

京都府乙訓郡大山崎町字下植野小字宮脇114-9
075-874-4159
8:00~18:00(完売次第終了)
定休日 月曜、火曜(月曜が祝日の場合、水曜休み)
http://www.cinqpain.com/