BLOG料理人がオフに通う店2019.05.10

「京天神 野口」―「リストリア ラディーチェ」根本義彦さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回はイタリアン「リストリア ラディーチェ」の料理人、根本義彦さんが通う和食店「京天神 野口」です。

「リストリア ラディーチェ」根本義彦さん

プロフィール
高校の調理科で学ぶかたわら、15歳から滋賀県彦根の割烹で日本料理の修業をはじめる。卒業後は「浜作」に4年弱勤め、北新地の割烹へ。25歳の時に系列店の料理長の打診があったが、「もっと料理を学びたい」と一念発起してイタリアンの世界へ。29歳でイタリアへ渡り2年、現地の味を学んだのち帰国。木屋町のイタリアン「Vineria t.v.b(ヴィネリア ティー・ヴイ・ビー)」でシェフを務めたのち、2013年に独立し、「カジュアルな雰囲気で、本格派のイタリアンを提供する店」をテーマとした造語「リストリア(リストランテ+トラットリア)」スタイルのラディーチェをオープンした。

頼れる兄貴分の、真似できない魚料理。その妙技に目が釘付け

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昼下がりには下校した小学生たちがにぎやかに公園ではしゃぐ姿を目にするが、夜になるとしんっと静まり返る住宅街。その一角にほんのり灯りをともす古民家を訪ねるのは、もはや至難だ。なぜならその古民家の主「京天神 野口」は、京都でも予約困難な和食店だからだ。

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根本さんは店主の野口大介さんを兄貴分として慕っている。

「野口さんは1歳年上ということもありますが、後輩思いでとても気にかけてくださるんです。10年ほど前に勤めていた『Vineria t.v.b.』に野口さんがいらっしゃって以来のお付き合いになります。2011年に、先に野口さんが独立され、私が独立するときに相談にのっていただいたことは、今でも感謝しています」

そんな根本さんの言葉に、野口さんは照れに照れながら「兄貴分なんてとんでもない。私は独立して店を持ってから、料理がブレてしまったことがあります。それまでと違って経営と料理の両輪になるわけですから、迷いもいっぱいで不安だらけでした。私も先輩料理人にいいろいろアドバイスをいただいてここまできました。だから根本さんにも、少し先に経験した者として、体験したことや感じたことをお話しさせていただいただけです」と語る。

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「季節を映しだす野口さんのお料理は、いつもはずれがなく、"こんな風にするの!?"と驚かされます。この前は5月にうかがったんですけど、今年も行けたらいいなぁ......」(根本さん)

写真は、「桜鯛と竹の子と針うどのお椀」。春らしさがお椀のなかに詰まっている。

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10年以上の日本料理の経験を持つ根本さんは、魚料理には自信があるが、野口さんにはかなわないという。

「カウンター越しにじっと手元を見たり、直接聞いてみるんですけど、大きく人と違うことはされていないんですよね。でも下処理が普通ではない。それはとてもささやかな部分ですが、それだけで圧倒的に魚が変わるんです」(根本さん)

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野口さんにその手法についてたずねてみたが、「うーん、そんなに特別なことはしてないんですよ、本当に」と困り顔。

「意識していることといえば、素直に料理をすることでしょうか。もっと年を重ねて経験を積んだら、素材をいじりすぎない境地に達したいんです。でもまだ今は無理なので、"料理"をしたいんですよね。今日の魚料理は、『のどぐろと平戸の紫雲丹の酢の物』で、酢はジュレ仕立てにしています。のどぐろは焼き物やお椀が多いですが、酢の物にすることは少ないので挑戦してみました。雲丹と酢の物の関係も同じくです。何を食べたか感じていただきたいので、食材はたっぷりと使うようにしています(野口さん)

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今、お店では7人ものお弟子さんが、野口さんの元できびきびと修業を積んでいる。

「こちらへは、いつもラディーチェのスタッフを連れていきます。お店の雰囲気、仕事の仕方、そこに宿る志を、ジャンルは違いますが学んでほしいからです。何年も通っていると、出会ったころは新人だったお弟子さんが、会うたびにしっかりと成長されていく姿を拝見するのも、個人的にうれしいんですよね」(根本さん)

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カウンターの奥には4人までの個室があり、細川護熙氏の書が掛けられている。

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「器も素敵なんですよね」と根本さんは感嘆する。

「骨董だけだと重くなるので、現代作家のものや、今日の魚料理を盛りつけたアンティークのガラスなども取り入れています。そうして、コースのなかで器でも緩急をつけているんです。何事もバランスが大切で、器も含めて、店という箱と料理と自分たちがマッチしているかどうか、ですね」(野口さん)

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カウンター内の和ダンスには、いつもガラス細工を飾るそう。この日はラリックの花瓶が。そういった器の目利きは、最初の修業先であった和久傳で培われた。実はお二人は、10年前の出会いよりもさらに前から、少なからぬ縁があったそうだ。

「実は浜作を辞めるときに、和久傳からもお話があったんです。もし和久傳に行っていたら、野口さんの下で働いてたのかも......と思うと、より親近感がわきます(笑)」(根本さん)

「私が『Vineria t.v.b』を訪れたころは、シェフは根本さんひとり、ホールもひとりと、たったふたりでまわしていて、"すごいな!"と、とても驚きました。それでいて手際もいいし、味も決まっている。性格は情熱的で、でも話しやすい。そのうえ、和食の経験もお持ちで、さらに和久傳のエピソードでしょ? いっそう根本さんに興味を持ったんです」(野口さん)

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根本さんは季節ごとに何回かうかがうのが理想的だというが......。

「なかなか予約が取れませんからね......。ラディーチェが休みの水曜を狙います! 初めて食べたときの"美味しい"という感動をずっと与え続けてくれる野口さんの料理は、私にとってかけがえのないものです」(根本さん)

撮影 津久井珠美  文 竹中式子

■京天神 野口

京都市上京区天神道上ノ下立売上ル北町573-11
075-276-1630
17:30~21:00
定休日 月曜

食知新

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