BLOG料理人がオフに通う店2019.07.10

「蛸八」―「食堂おがわ」小川慎太郎さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「食堂おがわ」の料理人、小川真太郎さんが通う和食店「蛸八」です。

「食堂おがわ」小川真太郎さん

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《プロフィール》
福岡県出身。福岡の居酒屋に勤めた後、20代前半に京都へ。仕出し店で約5年間修業を積み、その後先斗町「余志屋」、「祇園さゝ木」で腕を磨いて2009年に独立。2010年に現在の地へ移転。上質でいて手ごろ価格な料理が評判となり、最も予約の取りづらい店の1軒といわれるように。20197月には2号店「食堂みやざき」を開店する予定。

何気ない料理が何気なく旨い!

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全国の居酒屋通が「一度は訪ねたい」と熱望する「蛸八」は、呑み助の聖地ともいえる店。京都の街中、蛸薬師新京極にある小体な店には渋い暖簾がかかる。

「食堂おがわ」の小川真太郎さんは「仕事帰りや休みの日の2軒目など、ふらりと覗いて、席が空いていたら必ず一杯飲んでいく」店だという。遅めの時間帯には、小川さんだけでなく、京都の料理人がカウンターに並んでいることも多い。

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開店は昭和54年。職人気質で名人と言われた先代の掛谷陞さんが、京都の割烹「河しげ」で修業を積んだ後に開いた店だ。割烹とはいうものの、どの料理も安価で、いつしか「日本一の居酒屋」と呼ばれるようになった。

「一度は行きたいと思ってましたが、修業中はなかなか行ける店ではなくて...。初めてうかがったのは、余志屋時代。お客さまに連れていっていただきました。何気ない料理ばかりなのに、何を食べても本当に美味しくて。圧倒されました」と小川さん。

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小川さんが通うようになったのは独立してから。その頃には、他店での修業を終えて実家にもどった浩貴さんもカウンターに立ち、父息子ふたりで店を切り盛りしていた。

「うちの親爺は、あれをこうして、これはこうしてと言葉にして教えてくれる人ではなかったんで、すべて見ておぼえる方式ですよね。いやあ、最初はわけがわからなかった。父のつくったものを陰でそっと味見することもあったし、ぐじ焼きなんかも、ひたすらそばで見てましたね」と2代目の浩貴さんは話す。

実家にもどってから20年。「親爺の時代からの常連さんも多いから、いまだに鱧の骨切りの音がお父さんと違うと言われます」と笑う。

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淡々とした料理のしみじみとした味わい、あたたかいのにピシッとした店の雰囲気も、ここに憧れる理由だと小川さんは言う。

「品書きは食材の名前だけ。割烹として、ここは崩してはいけないという凛とした姿勢を保っている。浩貴さんの代になってもそれを変えないのがカッコいいですね」と小川さん。

「いろんな意味でかなり影響をうけている」そうだ。

「以前、覗いたときに満席で、あきらめようと思ったら、お客さんが席をつめてあげると言ってくださって。そんな空気感がまたいいんですよね」(小川さん)

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カウンターに座ってまず注文するのは造り。鯛など白身も好きだが、蛸は必ず注文する一品。
「質のいい蛸を、最高の状態にゆで上げていらっしゃる。簡単なようでなかなか真似のできない職人技です」(小川さん)

蛸の造り900円~のほか、たいやかつお、夏には鱧と定番の味が品書きに並ぶ。
「品書きも親爺の代からまったく変えてません。自分の代になったら違う料理をつくってみたいと思った時期もありましたが、結局、親爺のやっていたことが一番だと気づきました」と浩貴さん。

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春なら、若竹煮、冬はすっぽん鍋、最後の締めは、鱧丼にすることが多いと小川さん。

「鱧の焼き加減も抜群。つぎ足して使っているタレも独特で、ここでしか食べられない味です。若竹煮も、普通はそこまでトロトロにしないだろうと思うほど若芽を煮る。なかには苦手というお客様もいるかもしれないけれど、これが蛸八スタイルと貫く芯の強さというか、そういうところもリスペクトしている部分ですね」(小川さん)

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「自分の代になって、小川さんのように若い世代の料理人も来てくれるようになった」と嬉しそうに話す掛谷浩貴さん。今も目標は先代の陞さんで、一生かかっても親爺の料理にはたどり着けないかもしれないと謙遜する。

「真ちゃん(小川さん)はすごい料理人だと思いますよ。僕なんかは親爺がつくった店を継いだだけですからね。彼は福岡からでてきて、いろんな店で技を身につけ自分の店を開いた。ただ開いただけじゃなくて、あそこまでの評判の店にした。尊敬しますよ」(浩貴さん)

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「イタリアンは男同士で行くと照れてしまうけど、蛸八なら様になる。カッコつけてないカッコよさんがある店なんですよね」と小川さん。

料理人として、人としてリスペクトしあえるからこそ、浩貴さんは心をつくしてもてなし、小川さんは居心地がよくなる。そんな関係があればこそ、お互いにより高みを目指せるのだろう。

撮影 竹中稔彦

■蛸八

京都市中京区蛸薬師通新京極西入ル東側町498
075-231-2995
18時~23時
休日曜

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