BLOG料理人がオフに通う店2020.11.28

「Cantina ROSSI カンティーナ・ロッシ」ー「Bistro Ceriser」椎葉正子さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「Bistro Ceriser」の椎葉正子さんが通う「Cantina ROSSI」(カンティーナ・ロッシ)をご紹介します。

Bistro Ceriser」の椎葉正子さん

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1998年にオープンした「Bistro Ceriser」は、現在、オーナー。店は椎葉さんがマダムとして切り盛りし、厨房はシェフの小森雄介さんが預かる。ブルゴーニュ、ガスコーニュ、リヨン、ブルターニュ、プロヴァンスなどフランス各地の郷土料理を提供している。「日本食でいえば、肉じゃがや茶碗蒸しのような身近なお惣菜のような存在のフレンチが好き」という椎葉さんは、どこか懐かしくてほっとする、そんな料理を楽しんでほしいといつも考えている。

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オープンキッチンで料理をする中川シェフ。お客さんとの会話も大切にしている。

オーナーシェフの中川浩さんは、ユニークな経歴の持ち主だ。大学卒業後、大阪の建築事務所に20年以上勤め、建築士として新しい町づくりなど、いくつもの都市開発のプロジェクトを手掛けてきた。そのリサーチのために、イタリアを何度も訪れたそうで「町も人も料理もワインも大好きになった」とすっかりイタリアのファンになってしまった。

阪神大震災の後、建築関係の仕事は多忙をきわめ、自分を振り返る時間もなく過ごしていたそうだが、まずは復興のために量をこなさなければならない仕事の環境に悩むようになり、39歳のときに思い切って建築士をやめて、この世界に飛び込んだ。

「今、思えば我ながら、かなり思い切った決断だったと思います(笑)。たまたまですが、親しくさせてもらっていた「レストラン・フクムラ」の福村賢一オーナーシェフや、金沢の「イル・ガッビアーノ」の金山貴永オーナーシェフが親身にアドバイスをしてくれたんです。金山シェフなどは泊まり込んで、生パスタの作り方を伝授してくれました。オープン当初は、そのときにメモしたレシピ通りに料理をして、お客様に提供していたんですが、いま考えたら、よくやっていたなあとおもいますよ(笑)」。

 京都のイタリアンを牽引してきた有名シェフと、金沢を代表するイタリアンの旗手、その二人の手ほどきを受けて、なんという贅沢な門出だろう?と今なら思えるが、イタリアンの店で修業をした訳でもなく、確かにかなり思い切った第二の人生の幕開けだったはずだ。

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シェフご自慢の生パスタ。小麦の滋味をしっかり味わうことができる。

 当時、まだ珍しかった生パスタのメニューや、エスプレッソマシンの導入などで話題性も高く、さらに、細く、狭い路地裏の「こんなところにレストランが?」という意外性が話題を呼んで、口コミでお客さんが順調に増えていったという。すでに結婚していた美弥子さんと二人三脚で、現在まで店を懸命に切り盛りしてきた。

 今も、初めて訪ねる時は「こんな住宅地の細い路地に店があるの?」と少々不安になるけれど、穏やかで心地よい店は健在だ。

今も、自家製の生パスタはメニューの基本。喉ごしでつるりと食べる乾麺と異なり、生麺は」もっちりと弾力があり、よく噛み締めてこそ、旨味が伝わってくる。

「生パスタはリガトーニ、タリアテッレ、スパゲティの三種を用意しています。生パスタはソースによく絡むのが魅力。ソースにももちろん大切ですが、パスタそのものもののおいしさを味わってほしいですね」

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前菜の「色々な野菜の盛り合わせ」1,200円(価格はすべて税込)。野菜の滋味とオリーブオイルの香味、絶妙の塩加減がマッチして、これだけでもワインのボトルが欲しくなる。

「中川さんご夫妻とは、20年以上のお付き合いになります。よく双方のお店を行き来して、食事をしたり、食事を楽しんでもらったり。お店が終わるとそのままどちらかの店で飲み会が始まる...そんな感じで仲良くしてもらっています(笑)」(椎葉さん)。

椎葉さんが店にくるとまず、注文するのがアンティパストの「色々な野菜の盛り合わせ」だ。インゲン、ナス、ズッキーニ、パプリカ、カボチャ、ポテトなど、とりどりの野菜をグリルやマリネした一皿で、カラフルな食材が食欲を誘う。シチリアやローマ近郊の美味しいオリーブオイルを厳選し、調理に使ったり、ソース代わりに料理にかけたりと使い分けているが、オリーブオイルの香りが素晴らしく、野菜の旨味や甘みをよく引き出している。塩、コショウといったシンプルな調味料だけで、深くコクのある野菜の味を生き生きと楽しむことができる。

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「これ以上、シンプルなパスタはない!」という中川さんご自慢の一皿。「カーチョエぺぺ」1,300円。削りたてのペコリーノ・ロマーノと挽きたての黒胡椒が、鼻腔をくすぐる。生パスタ本来の味わいとペコリーノ・ロマーノの質がすべてを決める一皿。

椎葉さんのお気に入りのパスタは、メニューの中でも最もシンプルな、「カーチョエぺぺ」。削りたてのペコリーノロマーノと挽きたての黒胡椒をたっぷりと使い、パスタの茹で汁で練るように混ぜて、ゆでたてのスパゲティにしっかりとからめる。

「塩味は、茹で汁の塩味とペコリーノの塩味のみ。生スパゲティは太めで重量があり、しっかりした噛みごたえで、濃厚なソースによく合います」と中川シェフ。

 メニューは、アンティパスト、プリモ・ピアット、セコンド・ピアット、ドルチェで構成されている。前菜を何種類かとパスタだけで軽く食事をするもよし、メインのセコンド・ピアットもしっかりと味わって、コースのように楽しむもよし。夜はアラカルト中心だが、初めて訪れる時は、シェフおまかせのコース(3,700円〜)もおすすめだ。

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ちょっとした室内の小物にもオーナー夫妻のセンスが感じられる。

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右からシチリアのロゼ、ピエモンテの赤、ローマ近郊の白、シチリアの赤。各地のワインを地酒のように楽しむイタリアのワインは、どれも気候風土に育まれ、個性に溢れて魅力的だ。ボトル2,500円〜、グラス650円〜。

 ワインももちろんイタリア各地のものを常時20種ほど揃える。ワインリストにイタリアのワインマップが挟んであって、地理を確かめながらワインを選ぶのもなかなか面白い。各地の気候風土が醸すワインの個性を地酒のように楽しみたい。

「今は新型コロナでなかなか海外に行けませんが、それまでは毎年、二人でイタリア食紀行の旅をしていました。馴染みのレストランやチーズ屋さんを訪ねたり、各地の郷土料理やワインを味わったり...。また行けるようになるといいですね」と話す奥さんの美弥子さん。

椎葉さんも必ず締めに注文するというドルチェは、美弥子さんが主に担当している。今日のおすすめは「アーモンドとキャラメルのセミフレッド」500円。ムース仕立てのお菓子を凍らせた一皿。アイスクリームとも、ムースともまた異なる食感で、冷たすぎず、ふわりとした口溶けがとても不思議な美味しさで、後を引く。

キャラメルとナッツの香ばしさが寄り添って、仕上げのアマレッティの香りが華やかに漂い、一口、またひと口とペロリと食べてしまった。

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ナッツの香ばしさ、キャラメルの甘苦い味わい、不思議な口溶け。すべてが魅力的な「アーモンドとキャラメルのセミフレッド」500円。

前菜からドルチェまで、本当に最初から最後まで、ワインと共にじっくりと味わいたくなるものばかり。料理ともてなし、店主夫妻の人柄。居心地が良くて、つい長居をしたくなってしまうのは当然だが、さらに店内空間の造りも素晴らしい。

そう、建築士らしく、店の設計はもちろん中川さんによるものだ。暖かく、穏やかな雰囲気は、イタリアの田舎のワイン蔵をイメージしたのだとか。

「イタリアに親しい友人がいまして、彼の家の地下に素晴らしいワイン蔵があるんです。彼の家に遊びに行くと、必ず、ワイン蔵で何時間も過ごします。友人からもヒロシはワイン蔵に住めるね、と言われています(笑)」

 夫婦の和やかなもてなしと気取りのない会話。寛ぎの空間で、美味しい料理をゆるりと楽しみつつ、ひととき心身を休めてみてはいかが。

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白壁、レンガ、木。自然な素材が醸す温もりはとても心安らぐ。中川さんが設計した店内は、まさにワイン蔵にいるような落ち着きを感じる。

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夫婦の息のあったおもてなしと楽しい会話にこちらも笑顔になる。二人に会いに、また、すぐ訪ねてきたくなるような一軒だ。

撮影/竹中稔彦  取材・文/ 郡 麻江

■「Cantina ROSSI」

京都市左京区吉田泉殿町 57-1
075-751-6422
ランチ12:00~14:00(LO)、ディナー:18:30~21:00(LO)
日曜・祝日休(不定休)