BLOG料理人がオフに通う店2021.01.27

「ユキフラン佐藤」-「ワインとワショク ツネオ」の岸名裕彦さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は【ワインとワショク ツネオ】の岸名裕彦さんが通う「ユキフラン佐藤」をご紹介します。

【ワインとワショク ツネオ】店主の岸名裕彦さん。

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岸名裕彦さんは兵庫県丹波市出身。祇園のイタリアンの名店「イル ギオットーネ」で経験を積み、同店の東京丸の内店のオープニングマネージャーとして活躍。都内のイタリアンレストランなどの仕事を経て、20135月、自らの店である【ワインとワショク ツネオ】をオープン。季節ごとの感性、素材と素材の出合いを大切に、オリジナリティ溢れる料理を日々、創造している。

 白川沿い町屋が立ち並ぶ、風情ある祇園新橋にほど近いビルの奥。白い暖簾の向こうに静かに佇む「ユキフラン佐藤」の店主、佐藤功一さんは、東京の大学で建築を学んでいたが、卒業後、日本料理の世界へと進んだ。
 その理由の一つが、茶の湯の世界との出会いだった。大学構内にあった「待庵」の写しの茶室で行われていた茶道の稽古に参加することになり、月1〜2回の稽古に通ううちに、茶の湯の世界に強く惹かれるようになったという。
 「茶室独特のあの背筋がピンと伸びるような心地よい緊張感や、静かで澄み切った空気など、心に響くものがあったんです。建築も空間に関わる世界ですが、何か茶の湯のこの心地よさや素晴らしさとつながるような仕事をしたいと思うようになりました。漠然とですが、それは宿泊施設のような空間を将来作り、そこで仕事をすることかな?と考えるようになり、それなら、まずは宿泊に深く関わる料理から始めようと思ったんです」。
 2年ほど東京の店で修業したのち、親しくしていた京都出身の先輩からの声がけがあり、京都へと移り住む。京都の割烹店で6年、さらに修業を積んで、20138月に自身の店をオープンした。

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店内はカウンター9席のみ。完全予約制で1日、1〜2組の予約を受け入れている。

「ワインとワショク ツネオ」の岸名さんは3〜4年前、人づてに祇園に良い店があると聞いて、佐藤さんの店を訪ねたという。
「おまかせのコースのみのお店ですが、佐藤さんの素材の持ち味を引き出す料理のどれもが素晴らしく、衝撃を受けました。シンプルな料理なのに、奥行きがあり、その料理も驚くような味わいに仕上がっていて、まさに天才肌の料理人だと思います。その上で、料理にかける情熱を持って、常に美味しい味を追求し続ける人。料理人として、その姿勢を心からリスペクトしています」

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開店当初の思いを持ち続けつつ、日々、料理に向き合う佐藤さん。

「心の奥底に響くような料理を作っていきたいというのが、当時からの思いです。なかなかできることではないですが、コース料理の中でたった一つでも、心に響く味が提供できれば、その方はまたきっと来てくださると信じて、日々、料理に向き合いたいと考えています」と佐藤さん。
 食材は自らが毎日、市場や時に遠く大原あたりまで出かけて、納得するものを手に入れる。季節や旬を考えながら、素材の取り合わせを考え、献立を決めていく。器も骨董を中心に、自分の感性に沿う品々を少しずつ蒐集している。その道具箱がぎっしりと店奥に並んでいる。

 「顔見知りになってからは市場などで出会った時、よく話すようになって、食材の情報交換もしています」と岸名さん。佐藤さんの料理にすっかり惚れ込んでいて、「何か美味しいものが食べたい」という時は、迷わず、佐藤さんの店を訪ねるそうだ。

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桐箱には、一つひとつ、佐藤さんが吟味して集めた器が大切にしまわれている。

 まだ寒さの残る新春の候に合わせて、佐藤さんに料理を何品か作ってもらった。

 軍配を象った繊細な美しさの古九谷の器で登場したのは「たたきごぼうと小鯛の玉露煮」。小鯛を一尾ごと素焼きして、玉露で半日〜1日、じっくりと炊き、骨も柔らかくなったところを甘辛く甘露煮に仕上げる。身も骨もホロホロと柔らかく、添えられた玉露の茶葉とともにいただくと、じんわりと素材の滋味が溢れてくる。たたきごぼうは、サクッとした食感を残しつつ、粗く擦った白ごまを纏って、どこまでも香ばしい。

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素材本来の持ち味を生かし、どこまでも味わい深い料理。日本酒とともにじっくりと堪能したい。

 椀ものは季節に相応しく、ふぐの白味噌仕立てのお雑煮。ふぐのアラから引いただしと白味噌のふくよかな風味、玄米餅はもっちりした中に玄米の粒々が生き生きと立って、微かな野趣を感じさせる。こんもりと盛られた緑は、ふきのとう。ほろ苦さと爽やかさが口中に広がって、まだ少し遠い春を呼ぶような心持ちになる。さらに、アラをカリッと揚げたふぐあられが弾むような食感と香ばしさを添えて、新春を寿ぐにふさわしい一椀に、深く、心打たれる。

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鶴の金彩を施したおめでたい椀に、そっと貼られた白味噌とふきのとうの緑の対比が実に美しい。春を呼ぶ一椀だ。

 割山椒という柔らかな曲線を描く備前の古い器に盛られた、色彩豊かな一品は、牡蠣とセリのおからである。しっとりとした真っ白いおからにセリの青を瑞々しく和えて、セリの根を添える。春先の青味と大地の味を舌に感じつつ、香ばしく焼き上げたどっしりと量感のある牡蠣をいただく。潮の香りとまろやかな旨み、濃厚なコクが一気に喉元を通り過ぎ、胃の腑にしっかりと収まる。
大地の恵みと海の恵みが身の内に充溢してくるようで、まさに贅を尽くした味わいとは、こうことをいうのだろう。

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春の芽吹きを感じさせるような一品。セリの葉と根が土の力強さを、釧路・仙鳳趾産の牡蠣が海の匂いを運んでくれる。

 一品ひと品に、岸名さんのいう「衝撃」を確かに感じ、料理を味わうほどにその驚きが喜びに変わっていくのがわかる。素材の取り合わせ、調理、仕上げに至るまで凄みさえ帯びて、こちらは佐藤さんの世界にただただ、うっとりと浸ってしまう。
 しかしご本人はいたってストイックな姿勢を崩さない。
 「茶の湯にも通じることで、料理における真・行・草についてよく考えるのですが、草は日常の食事、行は外食や宴会なハレの食事、真は何だろう?と、まだそこは考えている最中です。その答えも含めて、まずこの料理の世界でしっかりとやっていくことが今、一番の目標です」
 そう話す佐藤さんは、昨年、結婚したばかり。奥様は洋菓子のプロで、現在は洋菓子や料理の教室を京都市内で開いているそうだ。良きパートナーを得て、最終目標に据えていた宿泊の仕事も含めて、今後は二人で、互いにやりたいこと、やっていけることを相談しながら、歩んでいきたいという。
 新たな境地に立つ佐藤さんの料理が、これからどんな広がりを持って、どんな驚きを見せていってくれるのか、ファンならずとも楽しみにしたい。

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店名のユキフランは、母、幸子(ゆきこ)さんの名前から、「幸」の一文字をもらって、"この庵(店)に、幸多く降らんことを"という願いを込めて決めたという。美味しいものには人を幸せにする力があるということを、実感させてくれる。

■ユキフラン佐藤

京都市東山区新橋通花見小路東入ル2軒目南側八百平ビル1階奥
075-531-3778
※電話による完全予約制。料理はおまかせのコース(料金はその時の材料などの都合で15,000〜20,000円の間)のみ。

撮影/竹中稔彦  取材・文/ 郡 麻江

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