BLOG料理人がオフに通う店2021.12.22

「HANA (ハナ)」-「太郎屋」の杉本悠子さんと前川瑠衣子さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回「太郎屋」の杉本悠子さんと前川瑠衣子さんが家族で通う「HANA (ハナ)」をご紹介します。

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「太郎屋」の前川瑠衣子さんと杉本悠子さん姉妹

 四条烏丸西入ル、路地酒場が集まるエリアにある「太郎屋」。女将の杉本雪枝さんは料理上手で、夫の「太郎さん」(ニックネーム)がお酒好き。雪枝さんの手料理で美味しいお酒が飲める理想の居酒屋をして欲しいと太郎さんのたっての希望で30年前にこの店を始めた。暖簾を守っているのは、店主の杉本雪枝さん、長女の悠子さん、次女の瑠衣子さん姉妹。母娘3人で切り盛りして、アットホームな店はいつも常連客を中心に賑わっている。
 雪枝さんのお姑さんが料理の名手で、雪枝さんはおばんざいをはじめ、京の家庭料理をしっかりと受け継ぎ、それを姉妹がさらに受け継いでいる。サラリーマンの懐に優しいプライスで、くつろいで美味しい料理とお酒をゆっくり楽しんでほしい。創業当初の思いは今もしっかりと繋がり、働く人たちの癒しの場所となっている。

「『HANA」さんの店主、岩崎さんとは古くからの友人で、当時、岩崎さんはフレンチレストランの店長をされていました。その後独立され、HANAを開かれたのですが、私たちの自宅から近かったこともあり。家族3代(父母、私と姉の家族)でいつも大勢で伺います。
お店の雰囲気はとてもカジュアルなのですが、お料理はとても本格的。なのに、どこかホッとするような味で、子供達はガツガツ、大人はワインがガブガブ進んでしまう、レストランとバールのいいとこ取りのようなお店です。堅苦しくなく、でも砕けすぎてもいない、とても素敵なお店。過去にミシュランのビブグルマンにも選ばれておられます。岩崎さんのことをずっと「トーマスさん」と呼んでいますが、そのスマートな接客とシャイな照れ笑いがいつも場を和ませてくれます。トーマスさんもお料理はされるのですが、寡黙な料理長「平木さん」というパートナーとともに、メニュー構成を考えていて、2人の温かい接客とお料理がとてもいい感じです。お料理はいつも旬の食材を使ったメニューがたくさん並んでいるのでその時の気分で頼むのですが、必ず頼むのが「ニース風サラダ」です。とってもシンプルなメニューなのに基本のドレッシングがきっちりと作られていてこのサラダを食べるだけで他の全部のお料理への信頼と期待が高まります!どのお料理も塩の塩梅が絶妙で、本当に何を食べても美味しいですよ!」

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全面ガラスから望むこの眺望が、この店の"らしさ"であり、魅力になっている。

 オーナーシェフの岩崎 出(いずる)さんは、京都・元田中のフレンチの名店、ベルクールで松井知之シェフのもと、4年半、修業し、その後、2号店となるLe Bouchon(ル ブション 寺町二条)を任されて、さらに4年半、研鑽を積み、2000年に独立して、オーナーシェフとして「HANA」をオープンさせた。
「あのころ、ぼくらのような料理人が夜、仕事を終えてから、集まって飲み食べするような店が本当に少なくて...、とくに洋食系がなかったんです。ワインをゆっくり楽しみながら、美味しいフレンチが楽しめる店があったらいいなあとずっと思っていて、その思いをそのままかたちにしました」
 それまで京都にはほとんどないスタイルの店。夜遅くまで開いていて、料理とお酒が楽しめる店、ということで、カクテルやワインが飲めて、ベルクール仕込みのフレンチ・アラカルトが揃う、ビストロの先駆けのような店をオープンさせたところ、料理人だけでなく多くの人が待ち望んでいたのだろう、評判が評判を呼んで、大人が深夜までゆるりと楽しめる一軒として、多くのファンを掴む店に成長していった。

 桝形商店街の入り口すぐそばの細い階段を登っていくと2階は厨房、3〜4階がダイニングフロアとなっている。螺旋階段の上に、広々とした空間が広がり、窓からの景色は鴨川から東山へ、京の風景が惜しげもなく広がる。
 これほどの眺望が楽しめる店は京都では貴重で、この景色もまたごちそうの一つだろう。刻々と景色を眺めつつ、夕暮れワインなどつい楽しみたくなってしまシチュエーションだ。

 眺望を眼前に楽しみつつ、小粋な空間で、さて、ワインとご自慢の料理をいただいてみよう。現在、この店では岩崎さんとベルクールの時の後輩シェフ、平木泰史さんとダブルシェフで料理を提供してくれる。料理はアラカルトのみ。オードブルだけでも、目移りするような旬菜が並び、思わずボトルを欲するメニュー構成になっている。オードブル、パスタ、メインと60種ほどの魅惑のメニューは、季節を追いながら、次々と変わっていくそうで、次はあれも食べたい、これは旬のうちに絶対食べにこなくちゃ...!と、リピーターが増えるのもわかる。
 料理はどれもたっぷりと盛られ、ワインもグラス、ボトルともにリーズナブルな価格から揃えている。推薦者の前川さんがいうところの、まさしく「レストランとバールのいいとこ取り」をしている店なのだ。

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前川さんファミリーの大のお気に入り、ニース風サラダ1320円。

 アンチョビ、茹で卵、オリーブ、トマト、三度豆、玉ねぎ、セロリ、ピーマン、サニーレタス、ロメインレタス、トレビス、ルッコラなどなど数えきれない素材をたっぷりと使った贅沢な「ニース風サラダ」はこれだけで立派な一品。赤ワインヴィネガーと最高級ランクのオリーブオイルの味わい豊かなドレッシングに仕上げの自家製ツナ天盛り。ツナは生のカツオから丁寧に作っている。

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ズワイガニとウニのアメリカンリングイネ 1650円

 パスタも食材の仕入れによって季節を反映し、少しずつ変わっていく。15種類以上は揃うパスタメニューはどれも本当に魅力的。甲殻類をベースにしてミルポワと合わせた濃厚なアメリケーヌソースに、さらにズワイガニやウニの海の旨味をまとったリングイネは、海の芳香が素晴らしく食べ応えも十分だ。
「魚介の仕入れは、七条通七本松の山定商店さんに全面お任せしています。ご主人がほんまに旬魚の目利きで、全幅の信頼を寄せています」
 カルパッチョや魚料理は、素材次第で味が決まる。そこにベルクール仕込みの技を惜しげもなく駆使して仕上げる1品1品に、岩崎さんと平木さんの思いが込められている。
「フォンドヴォーもフュメドポワソンも、ツナもベーコンもソースもドレッシングもパンもグリッシーニも...(笑)、基本、全て自家製です。どの料理もご家庭ではなかなか食べられない味を目指しています。それでこそわざわざ外に食べにきていただく意味があるんですから...」

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見よ、この圧倒されるボリューム!ハモカツ1650円

 ここにくれば、これはマスト!というのが名物のハモカツ。前出の山定商店さんからいつも良いハモが届くので、料理のバリエーションを広げたいとあれこれ考えて辿り着いた味だ。大ぶりにカットしたハモに小麦粉、卵、パン粉の衣をつけて、じっくりと揚げ焼きにする。仕上げにパルミジャーノをたっぷりのせて、タルタルソースとともにいただく。上品なハモの風味とカリッサクッとした衣が見事な調和をみせ、チーズとタルタルソースが濃厚さを加えて、味、ボリュームともに大満足。キリッと冷えた白ワインが進んでしまう一皿だ。

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ワインは岩崎さんにいろいろ尋ねてベストセレクトしてもらおう。

 ワインはいつもおおよそ200本常備している。ワインリストはなく、お好みと予算を伝えると、岩崎さんがその時々の料理を見て、ボトルを4〜5種類、並べてくれる。それぞれのテイストを丁寧に説明してくれるので、ワイン談議を楽しみつつ、セレクトしてもらうのがいいだろう。グラスワイン660円からもあるが、なんとってもワイン好きにたまらないのが、がぶ飲みできるハウスワインだ。
 デカンタ2/1リットル、2200円で、なんと1リットルが3300円!ともにイタリアワインで赤がサンジョベーゼ、白がトレビアーノ、いずれも飲みやすく、料理によく合う。
「ご家族やグループで軽く3リットルいってしまうツワモノもおられますよ(笑)」
しかし、この、ワインを誘う料理構成なら、いってしまうのはうなずける。

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岩崎さん(左)と平木さん(右)のコンビネーションもぴったり。

 何よりもこの店の引力となっているのが岩崎さんと平木さんの人柄、そしてホスピタリティだろう。ベルクール以来の信頼関係で結ばれた息のあったもてなしが、料理やワインの質と相まって、お客を心から寛がせてくれる。

 オープンして21年目。長い年月の間に世の中も変動し、リーマンショックもあれば、今は、まさコロナ禍に直面している。東に大文字山が真正面に見える絶好のポジションということで、夏には毎年、多くの人が参加する五山の送り火を楽しむ会を店で開いていたが、ここ2年はストップしている。
「ここ2年ぐらいは大変な思いをしましたが、ようやく少しずつ店に活気も戻ってきています。なかなかすぐには以前のようにとはいきませんが、他の飲食店もそこは同じですから、頑張るほかないですね。五山の送り火の会も、来年の夏にはぜひ開催したいものです」
 人生とおなじく、店にも山あり谷あり。しかし、「HANA」は、この地にしっかりと根付いている。来年の夏には、この店でワイングラスを片手に五山の送り火を楽しむ多くの人で賑わっていて欲しい。店も人も暮らしも、希望を持って、前に進みたいと願うばかりだ。

■「HANA」

京都市上京区河原町通今出川上る青龍町234
075-231-0606
営業時間 17:00〜23:00(LO)
定休日 月曜
予約ベター
※営業時間については事前に電話で問い合わせを。

撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江

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