BLOG京のほっこり菜時記2020.05.31

「さざえ」

By中井シノブ

飲食店取材1万軒を超える京都在住のライターが、時々の「うまいもの」を歳時記的につづる【京のほっこり菜時記】。 初夏から夏にかけて美味しくなる「さざえ」をご紹介します。

幼い頃、夏の旅行は、ほぼほぼ天橋立か伊勢志摩だった。

両親が海好きだったのだろうか? 単に新鮮な海の幸を食べたかったからだろうか?

そういえば、母と鮨屋に行くと、「ミル貝」「赤貝」「はまぐり」と、母は貝ばかり注文していた。貝の英才教育を受けたようなものだ。

伊勢志摩では、浜焼きの「さざえ」や「大あさり」の香ばしい醤油の香りに惹かれて海遊びの合間に食べ、天橋立では旅館で魚貝類の船盛りを食べた。昭和の贅沢を絵に描いたような旅行だった。

当時は、「さざえとは、なんと不思議な食べ物だろう」と思っていた。とげとげと角?が生えたような姿。刺身で食べるとコリコリとして噛みづらい。おまけに身の最後についているワタ(肝)はなんとも不思議な形で苦い...。初めて食べたときは、ほんの少しギョッとした。

だが普段の晩御飯でも、おかずに「なまこ」や「飯蛸」がでる家だったから、「さざえ」の味にもすぐに慣れたというか、好きになった。

「さざえ」は、5月から8月にかけてが旬の貝。ゴールデンウィークや夏休みに食べた思い出が多い。産卵前の肥えた時期が美味しいと言われ、8月になると身が痩せてしまう。つまり、できれば初夏の間に食べておきたい貝なのだ。

ちなみに、ワタが緑色ならメス、白っぽいのがオスで、緑色のメスのワタにより苦味があるそうだ。バーベキューなどで壺焼きにするのと料理屋で食べるのとで味が違うのは、
料理屋ではいったん茹でたり、雑味のある部分をとり除いたりと下処理をするから。
家庭でも、しっかり下処理すれば、より上品な味になる。

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さっと洗って網に乗せ、ぐつぐつと泡立ってきたところに酒と醤油をさっとかけて食べると磯の香りが口いっぱいに。ガーリックバターを落としてエスカルゴ風にしたり、オリーブオイルとバジルでイタリアン風味にしたりとアレンジするのもいい。

ビタミンB1やB2、肝機能に良いとされるタウリンも豊富だから、酒の肴にぴったり!?な料理だろう。

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ところで...

「さざえは壺焼きだ!」と思っていた私の常識を、一口で変えてしまった料理がある。

それは、御池間之町にある酒亭「笹蔵」の「さざえの唐揚げ」である。

店主の西村陽三さんが、「夏にサックリ食べられる揚物を」と考えたとき、「ふぐの唐揚げ」の衣で「さざえ」を揚げることを思いついた。
店でだしてみるとこれが好評で、以来、夏の名物になったそうだ。
衣はサクッとして身はやわらかく、塩胡椒だけという衣の味加減も抜群。
一度食べたらやみつきになる。

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間之町から細い路地をたどった突き当りに、「笹蔵」の渋い暖簾が揺れている。

ご主人の西村陽三さんはもと寿司職人で、自分の店を開いてからでも30年になるというベテランだ。手ぬぐいをねじった鉢巻がトレードマークで、自分で目利きした新鮮な魚や旨いものしか仕入れないという、ある意味頑固な人。だが、ものごし柔らかでいつも笑顔。

優しい「いらっしゃい」に迎えられると、ほっとする。

先日もFacebookに自分でつくった鮪料理をアップしたら、西村さんが「マグロは山葵もいいけれど、カラシ醤油で和え、もみ海苔をパラパラとかけて食べると、鮪の甘味が際立って美味しいですよ」とDMで教えてくださった。

「料理が大好き、人が大好き」、心底、尊敬する料理人のおひとりだ。

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さて、「さざえの唐揚げ」の話にもどるが、唐揚げを食べ終えると、ワタを醤油バターで壺焼きにしてくれる。さらに、お願いすれば少量のご飯を一緒にだしてくれる。肝の風味の醤油バターをご飯にかけて食べる美味しさといったら。

最近の私は、「さざえ」はこの店で食べると決めている。

「さざえ」の身が肥えている間に一度といわず二度、三度。

夕暮れ時に暖簾をくぐりたい。

■酒亭 笹蔵

京都市中京区御池通間ノ町上ル高田町509
075-252-3210
18時~23時(早仕舞の日もあるので要確認)
休 日曜

中井シノブ

京都の情報誌編集長を経てライターに。飲食店取材1万軒。外飯、外酒がライフワーク。著書に『京都女子酒場』(青幻舎)、『京の一生もん』(紫紅社)などがある。

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