BLOG村田吉弘の和食知新2019.01.24

五感で愉しむ和食の真髄(2)

By村田 吉弘

これを知っておけば大丈夫!料亭・割烹の楽しみ方やマナーをわかりやすく解説します。

緑滴る東山麓の懐に抱かれるように建つ、料亭「菊乃井」。大正元年、創業以来、京都を代表する名料亭として、多くの人々に愛されてきたこの店の三代当主、村田吉弘さんは、「和食とは何か?」を常に問い続け、それを使命に様々な活動を続けている。現在はNPO法人日本料理アカデミー理事長に就任し、「日本料理を正しく世界に発信すること」を自らのライフワークとして掲げ、「和食」つまり、日本の伝統的な食文化のユネスコ無形文化遺産への登録に尽力した。その村田さんに「和食とは何か?」について語っていただくシリーズの今回は第三回、「五感で感じる和食(その2)」をテーマにお話をいただいた。

イメージが宇宙的に広がっていく面白さこそが"ご馳走"

前回は、料理を目にして、口にした時、イマジネーションによって、時空も空間も距離も超えてしまうことができるとうお話をしました。そのためには、相手の方の心情に沿うたことをいかにできるか?やと思うんですね。
茶懐石では、「亭主がお客さんのために」が基本の姿勢となります。お客様に押し付けにならず、自分の世界観を映し出す茶席を創り上げて、提供するわけです。
たとえば秋の一日、ある茶席に招かれたとしましょう。ほの暗い部屋で茶懐石が出てきてね、それでお薄の時間になって、窓も開けられて、暗い部屋から明るい部屋にぱっと変わる。床の間には美しい軸が掛けられて...。
主菓子は薯蕷まんじゅうで、白の生地に朱色の流水紋がすっと一筋入っている。お菓子のお銘を伺ったら「竜田川」と言われるわけです。するとそこにまさに、竜田川に散り敷いた紅葉が現れてくる。表さん(表千家)やったら、茶碗が赤の楽茶碗だったりすると、もう、全山紅葉の山の中に居るような気持ちになるでしょう?
「四畳半に宇宙を見る」ってよく言いますけど、茶懐石のあの料理の味がどうこうではなく、もちろん、美味しないとあかんですけど(笑)、もう、そういうレベルではなく、そのイマジネーション、空間が宇宙的に広がっていくことが、結局一番のご馳走やというのが、日本人の感性であり、文化なんやと思いますね。

料亭「菊乃井」

ワクワクと心弾む空間、料亭はリビングミュージアム

僕は、つねづね、料亭っていうのは、「リビングミュージアム」やなと思っています。しつらいも器も料理もね、ミュージアムのように楽しんでいただきたいわけです。
たとえば椀ひとつを取っても、表側に赤やら、黄色やらの紅葉を全面に蒔絵で描いたものは、もちろん、それはそれで豪華で綺麗だけれども、「すごい蒔絵やったな」で終わってしまうんです(笑)。
そうではなく、外は漆黒やねんけども、静かに蓋を開けると、蓋裏に黄色から赤に色が移りゆくような紅葉が一枚、すうっと描かれている。ああ、洒落ているなあ、センスがいいなあとなるわけです。押し付けにならず、「ええもん見たなあ」とずっと余韻として心象に残っていく。それこそ、まさに「リビングミュージアム」ですよね。
僕としては、いつもそういうことを念頭に置いてお客様のための準備をするわけです。今日はなんのお軸を掛けようとか、お花をどうしようとか、香を焚いて、しつらいを調えて、そして素材、献立、器、温度帯、お出しするタイミングまでね、一分の隙もないように、仕立てていくんです。次は、どんなテーマで、どんな作品を展示しようかと考える美術館の学芸員さんと少し似ているかもしれませんね(笑)

料亭「菊乃井」

空間の隅々まで味わう。それこそが「五感で感じる和食」

第一回目の時に、「代々続く料亭には、それぞれの店の成り立ち、歴史というものがまずあって」、というお話をしました。
それは料理だけでなく、店の空間にも色濃く現れています。うちはお武家に仕えていた歴史があるので、館の造りは全部、書院造りになっています。茶の湯とご縁の深い料亭は数奇屋建築を生かしていますし、他にも別荘風なところや御殿造りといったお店もあります。柱もね、うちみたいに書院造だとみんな角柱ですし、茶室を意識したお店だと丸い柱になりますね。襖の唐紙や引き手、欄間などにも創意工夫が凝らされていますから、いろいろ見ると楽しいですよ。和風建築や内装などの知識をほんの少し持たれて、料亭に来られると、楽しみが倍増します。
料理の香りとテクスチャー、色彩、かたち、そして器、最後に空間があって、初めて「五感で感じる和食」が成り立つんやと思います。
どうぞ、これからは、料理はもちろんですが、しつらい、空間もじっくりご覧になって、「ええもん食べたなあ、ええもん見たなあ」と、二重に満足されてお帰りください。それが、料亭にとっては一番嬉しいことなんです。

料亭「菊乃井」

料亭「菊乃井」

■ 菊乃井 本店

京都市東山区下河原町 鳥居前下る下河原町459 八坂通
京都市営地下鉄東西線 東山駅(出入口1) 徒歩12分
京阪本線 祇園四条駅(出入口6) 徒歩14分
075-561-0015
http://kikunoi.jp/kikunoiweb/Honten/index

村田 吉弘むらた よしひろ

株式会社菊の井 代表取締役 / NPO法人日本料理アカデミー理事長。自身のライフワークとして、「日本料理を正しく世界に発信する」「公利のために料理を作る」。また「機内食」(シンガポールエアライン)や「食育活動」医療機関や学校訪問・講師活動)を通じて、「食の弱者」という問題を提起し解決策を図る活動も行う。2012年「現代の名工」「京都府産業功労者」、2013年「京都府文化功労賞」、2014年「地域文化功労者(芸術文化)」を受賞。

京都知新編集部推薦

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「料亭」では、座敷で、床の間のしつらえ、庭の景色、女将さんや仲居さんの所作、季節の空気の色をふくめて、空間ごと「静」の美意識を五感で感じることができます。 「割烹」では、カウンターの目の前で、調理、盛りつけといった料理工程や、大将や、二番手、三番手の料理人の所作を見ながら、「動」の美意識を体感することができます。このコーナーでは、京都知新編集部のスタッフが実際に行ったことがある店の中から、【この店に行けば、そんな静と動の美意識を味わえる】「料亭」と「割烹」をご紹介いたします。

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